第百七十話
VIP専用ルームを東雲たちを探して歩いていると、懐かしい顔を見かけた。
「山崎さん、お久しぶりです」
オークション会場にいたのは、日本有数のAランククラン、明星の東京支部長である山崎優平であった。
明星の本拠地は北海道にあるが、世界的に見てもダンジョン探索が盛んな都市である東京の支部長を任されている人物であり、相当な傑物であると思われる。
そんな彼は、以前、明星に俺を誘ってくれた。当時、断りはしたものの、その縁が完全には切れていない。
「伊藤さん、お久しぶりです」
朗らかな笑顔で手を出してきた山崎さんと、握手を交わす。
すると、山崎さんは一度目を大きく開き、ニヤリと笑った。
「随分と強くなりましたね」
山崎さんは元探索者であり、Bランクにまで上り詰めた腕利きである。
俺は、様々なアクシデント(ユニークモンスターとの戦いなど)によって、レベルが一気に伸びることが多かったので、短期間でBランクに上がれている。だが、実際はもっと時間がかかるものであり、見られ方もBランク探索者になることで一気に変わるのは、一部の優秀な探索者しか到達できないからだ。
「わかりますか」
「勿論、今からオークションそっちのけで、スカウトしたくなりました」
山崎さんの本気か冗談か分からない言葉に、思わず、笑みを溢す。
同年代の人間と話したのは久しぶりだったこともあって、乱れていた心も不思議と落ち着いていた。
「最近、調子はどうですか」
「順調ですね。先日、Bランクになりまして、レベルもいいペースで上がっています」
「それは凄いですね。Bランク探索者も狭き門ですから」
そう言った山崎さんの目はどこか遠いところを見るようであった。
彼も元は優秀な探索者である。現役の頃は様々な困難を乗り越えていたのだろうし、俺が同年代であることもあって、昔を思い出しているのかもしれない。
「私どもはボチボチという感じですが」
「いや、何をおっしゃってるんですか。この前もニュースで見ましたよ。札幌ダンジョンの攻略」
ニュース番組を見れば、明星関連の情報は幾度も耳にすることになる。彼らは砂攻略の最前線で戦っており、本拠地を北海道に置いている理由として、日本トップクラスの高難易度ダンジョン、【札幌ダンジョン】の攻略が挙げられる。
日本国内のダンジョンの多くは既に攻略されているのがほとんどであるが、東京の【摩天楼】、北海道の【札幌ダンジョン】、大阪の【淵源】は、まだ攻略されていないダンジョンである。
明星は未踏破階層を更新する、世界トップクラスのクランとして名を馳せていた。
「確かにクラン自体は順調ではあるんですが、お転婆姫が東京に来ておりまして」
そう言った山崎さんの顔は、老け込んだものとなっていた。
これで会うのは三度目であるが、いつもは余裕のある紳士といった印象を受けていたので、意外である。
「お転婆姫ですか」
お転婆姫と聞かされても、俺としてはピンとこない。
明星のニュースは日常的に聞くものではあるが、影響力の高い明星のゴシップの類はほとんど聞くことがないからだ。
「はい、伊藤さんを信頼して言いますが、実はクランマスターが東京に来ているんですよ」
「本当ですか」
かなり小声でしゃべる山崎さんに合わせて、俺も小声で言葉を返す。
明星のクランマスターと言えば、日本では十人もいない、Sランク探索者である。
その実態は謎に包まれているのだが、まさか、身内からお転婆姫と呼ばれているとは思わなかった。
「彼女とは古い付き合いになりますが、神出鬼没、自由奔放、そんな言葉が具現化したような存在でして、こっちも業務があるのに、引っ張り回されているんですよ」
そう言って項垂れた、山崎さんの顔をよく見ると、若干隈ができていた。
精神も肉体も常人離れしているはずの山崎さんですら、ここまで疲れを見せるのだから、本当にお転婆姫と呼ぶのに相応しい存在なのだろう。
(会いたくないな)
もし出会おうものなら、振り回されて、そのまま、どこかに放り投げられそうである。
「お、お疲れ様です」
東雲もヴァルもそんな突飛なことはしない、というか、むしろダンジョン内では俺が迷惑をかけている側なので、そんな経験はない。
「少し、愚痴を聞いてくれませんか」
山崎さんがどこか、懇願したような目でこちらを見てくる。
断りづらいと思ったので、頷くとゆっくりとであるが、溜まっていたストレスを吐き出し始めた。
そうして、何故か、山崎さんの愚痴を聞きながら、オークション開始までの時間を過ごすのであった。
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