第百六十九話
本日、二度目の更新です。
よろしくお願いいたします。
オーグル戦の結果は、俺たちの圧勝で幕を閉じた。
前回、第四十階層を攻略した時は、ソフィを本格的に組み込んでいなかったことや【神ノ雷杭】を使わなかったこともあって、ここまでスムーズにはいかなかった。
だが、今回は前回以上に隙のない戦術で戦ったこともあり、ほぼ圧勝と言えるような戦い方ができた。俺の魔術もある程度貢献したと思うが、それ以上に、攪乱要員の重要性が示された戦いだったと思う。
(これで帰還か)
オーグルの魔核をマジックバッグに収納し、佐々木ダンジョンから帰還する。
オークションを万全の状態で迎えられるよう、家に帰ってから直ぐに食事を取り、その日はしっかりと睡眠時間を確保し、次の日に備えるのだった。
♦♦♦
(緊張するな)
オークション当日、俺たちは都内にある会場に足を運んでいた。
モンスター素材のオークションに、必ずしも探索者ばかりが参加するわけではないことは分かっていたが、実際に会場に足を運ぶと、思った以上に普段見ないような雰囲気を持つ参加者も多くいる。
オークションで素材やアイテムなどを競り落とすには相応の資金力が必要であり、コレクターなどは資産家であることも多い。
それでも、アイテムや単にレアな素材は実利的な面で、探索者が欲しているため、本来は探索者の方が参加者は多くなる傾向があるのだが、今回はユニークモンスターの素材もかなり出品されているため、コレクターや研究者など、いつも以上に幅広い層の人間が参加しているそうだ。
(ちなみに、全部、大田支部長の情報だけど)
初参加ということもあり、大田支部長からはオークションに関しての情報や注意点を聞いていた。当然、服装はそれなりにちゃんとしたものを着ないといけないし、参加者の中には資産家や政治家もいるので、横柄な態度で参加しないようにとのことだった。
俺と東雲、ヴァルの三人で、VIP席のある部屋へと向かう。
俺はスーツ、東雲とヴァルはドレスを着て参加していた。
(VIP用だけあって、凄いな)
招待状をスタッフに渡し、VIP席のある部屋の中に入ると、そこは煌びやか世界が広がっていた。
部屋の中はパーティー会場と観覧席が併設される形となっており、食事はブュッフェ形式で参加者が自由に楽しむことができる。
早速、ヴァルと東雲はテーブルに置かれた豪華な食事に舌鼓を打っている。
(俺の知らない世界だな)
この部屋には、探索者より、恐らくは資産家、それも浅めのコレクターのような人が多い印象であった。
年齢層は幅広く、どことなく社交場のような雰囲気がある。
(あの人は探索者っぽいが、セーラー服?)
慣れない空気感に浮足立つのを抑えるように俺は、周りを見回しながら、室内を散策する。
すると、一人、異様な雰囲気を纏ったセーラー服の少女がいた。
(東雲ともまた違う、異質さだな)
俺が出会った人物の中で、一番異質な人物が誰かと聞かれれば、東雲一花を上げるだろう。
彼女は、俺のような一般人とはすべてが違う世界で生きてきた存在だ。
幼い頃から、厳しいダンジョンという環境に立ち向かうことを強いられていた。強くならなければ、生きていけない。そして、その強さを常に上回る存在が当たり前にいるのが探索者の世界だ。
正常な感性のまま育っていれば、普通は耐えられない世界である。
そんな厳しい世界に適応した東雲とは異なり、セーラー服の少女は別のベクトルでの異質さを放っていた。
同じ社会、同じ世界を知っているはずである。そう推測するは、この少女が、社会に溶け込むことや適応する努力を一切しておらず、あくまでも自然に生きていることが直感的に分かるからだ。
なぜ、そんなことが直感的に分かるのか?
それは東雲一花という、先程までは一番、そして現在は二番目に強い存在を知ることとなったからであろう。
一番はたった今、更新された。
このセーラー服の少女はこれまで出会ってきた誰よりも、強い。
(部屋を出よう)
俺は震えを抑え、部屋を出ようとした。方向を転換し、セーラー服の少女は視界から消えたはずであった。
「どうかしましたか?」
気づけば、セーラー服を着た少女が目の前にいた。
身長はだいたい俺と同じくらいであり、ちょうど真正面、目と鼻の先に顔が迫っている。
整った顔立ちに大きな目、長く伸びた黒い髪は糸のように美しい。そんな感想が出てくるくらい、彼女の容姿は端麗であった。
(怖い)
そんな整った容姿が全く気にならなくなるほどに、俺はこの少女の近くからいなくなりたかった。
同じ空間にいることが苦しい。今すぐにでも逃げ出したい。そんな気持ちが俺の心のほとんどを埋め尽くしていた。
「いえ、少し空気に当てられまして、外の空気を吸ってこようかと」
「確かに、顔色が悪いですね。付き添いましょうか」
なんとか、言葉を絞り出し、俺はこの場から離脱しようとする。
だが、少女は逃がさないとばかりに、身体を近づけてきた。
「「いえ、だ」わかってますよ、春彦さん。また、お会いすることになるので、その時はよろしくね」
耳元で聞こえる蠱惑的な声に、脳が蹂躙される。恐ろしくも、魅力的、思わず手を伸ばしたくなるほどであったが、俺は我慢した。
クスクスと笑う、セーラー服の少女。
恐怖のあまり一瞬目を瞑ると、その存在は消えており、俺は思わず、自分の頬を抓った。
(痛いな)
俺はヒリヒリする頬を撫で、現実であることを認識する。
(東雲たちのところに行くか)
とんでもない存在に邂逅したことを忘れるべく、フラフラと仲間の下へと向かっていく。
セーラー服の少女が、俺の苗字を言ったことに気づくのは、だいぶ後になってからであった。
読者の皆様、いつもありがとうございます。
さて、本作の主人公が危険な女にロックオンされましたが、一花もヴァルも危険な女なので、一人ぐらい増えても、同じですよね。
まあ、これからも増えますが。
危険な女に纏わりつかれる主人公、伊藤春彦の応援、今後ともよろしくお願いいたします。




