第百六十六話
第三十五階層の戦闘は完全に作業と化し、第三十六階層、第三十七階層は東雲、ヴァルが主体となって、徘徊するモンスターを討伐した。
モンスターの強さは階層を経るごとに上昇しているが、その強さに気おされることなく、討伐を進められている。
(少し、俺も魔術の制限を緩めたのも良かったな)
今の俺は、【極光】も主体的に使っている。この魔術は強力な魔術であるが、他の使用者、少なくとも俺の知る限りでは、類似スキルの存在を感知していない。
だが、探索者協会の支部長や明星という日本有数のクランにも目を付けられている状況で、出し惜しみをする必要性は徐々に薄まりつつあった。
こうした使用する魔術を増やしていくことで、戦闘がスムーズに行えており、それは攻略のスピードを速めてもいる。
現在、探索を進めている、第三十八階層にいるモンスターは【ワイバーン】であった。
かつて、ソフィの卵を手に入れる前に戦ったものよりも、よりサイズの大きい、竜と呼ぶにふさわしい存在である。
体長は十メートルは優に超え、空を自由自在に飛ぶ。
このモンスターは下位の魔法を無効化するバリアを張っているにもかかわらず、自身は遠距離の攻撃手段を持つという、実力のない探索者では逆立ちしても勝てないような存在だ。
ワイバーンの強みは宙にいる状態での、遠距離攻撃であるが、一般的な探索者は、魔法スキルや弓、遠距離攻撃スキルによってダメージを与える。
第三十八階層の適正レベルは、420~450となっており、Bランク探索者でも中堅程度の立ち位置にいることが、最低限求められるようになる。
そうなってくると、探索者の実力も相応に高くなっており、大抵が大手クランに所属し、スキルオーブへの投資や装備を相応なモノに置き換えている可能性が高い。また、武器によっては遠距離攻撃を可能とするもの、例えば、魔銃と呼ばれる、ダンジョン内でも使うことができる銃型の魔導具などを、この階層用に用意していても、おかしくはなかった。
「ヴァルが盾役、私が遊撃、伊藤さんは遠距離からの攻撃、ソフィは攪乱をお願いします」
東雲の言葉に、各々が頷く。
そう、ソフィはある程度、こちらの言葉を理解しているのである。
本来、モンスターの知性は野生動物と大差ない。個体差などもあるので、同種であっても知性の高いモンスターはいるが、短い言葉で指示の意味を理解し、明確に遂行できるほどの知性を有しているモンスターは極まれであった。
(東雲が言うには、これからもっと賢くなるらしいからな)
モンスターの中でも、竜種は高い知性を持っている場合が多い。ただ、人間と同程度ないしそれ以上の知性を持つことは少なく、言語を理解するのは竜種の中でもまれだ。モンスター総体で見ても、竜種に限定しても、かなり優秀なモンスターであることは明白である。
「まだ、かなり余裕がありますが、皆さん、準備してください」
いつものように、東雲のスキルによって、モンスターの存在は察知できる。
今回はワイバーンが遠距離攻撃手段を持っていることから、早めの警戒を行う。ミスト・ゴブリンも魔法による攻撃が主であるが、ワイバーンのブレスは、並みの魔法を遥かに凌駕する威力がある。
(もしかしたら、【極光】に匹敵したりしてな)
そこまでの威力があれば、かなり危険であるが、もしそうなら、東雲が何かしら伝えてくる可能性が高く、前回も今回も特にそういったことは言ってきていないことから、恐らくは、大きな障害にならないのだろう。
(そろそろか)
ワイバーンの姿が確認できた。
ぎょろりとした爬虫類特有の目に、巨大な翼、そして、モンスターの覇者といって差し支えない竜種特有の威風堂々たる姿に、刮目する。
「【極光】」
上位モンスター、ワイバーンとの戦いが、俺の魔術を起点に始まった。
♦♦♦
触れたものを融解させる光線が、ワイバーン目掛けて発射される。
【極光】の強みは、その速さと破壊力にある。直線である為、効果範囲は小さいが、当たれば致命傷を与える可能性は、他の魔術よりも高い。
(まあ、避けるよな)
攻撃を予知していたわけでもないが、魔力の揺らぎのようなものを感じ取っていたのか、はたまた直感か、ワイバーンは旋回して【極光】を回避していた。
図体こそ大きいが、そのスピードは花眼人形を彷彿とさせるほどである。
遠距離攻撃の回避もお手の物であり、ブラフやフェイントを混ぜなくては、容易には直撃させられないことは分かっていた。
「ヴァル、来ます」
東雲の言葉と同時に、ワイバーンがブレスを放ってくる。
高密度のブレスはこちらに向かって、真っ直ぐ飛んできて、ヴァルの大盾によって防がれた。
(ダンジョン産の金属をふんだんに使っているだけあって、余裕だな)
ヴァルの大盾は、ミスリルを筆頭に、ダンジョンで採掘された金属で作られている。
値段は、現在の収入を踏まえても、かなりしたが、探索をしていけば容易に取り戻せる額であり、安全性を考えて高価なものを用意している。
「【アイス・カタパルト】」
巨大な氷塊をワイバーンにいくつも放っていく。
【アイス・カタパルト】は上位の魔術であり、ワイバーンのバリアによって完全に防がれることはない。
(ほとんどダメージは与えれていないな)
精々が小石を頭にぶつけられた程度のダメージしか入っていないだろう。
(それが目的だけどな)
ワイバーンが俺を睥睨する。
明確に俺のことを敵と認識しており、優先して仕留める対象として定めていることだろう。
「なので、奇襲も余裕ですね」
だが、それが落とし穴である。
気づけば、ワイバーンの背後には、東雲の姿があった。
完全に気配を断って、ワイバーンの元まで近づいており、既に刀を振りかぶっている。
一閃、刀が銀の曲線を描き、ワイバーンの片翼を両断した。
「GYAOOOO」
ワイバーンの断末魔が響いていく。
まさか、距離を詰められているとは思っていなかったのか、ワイバーンはあっさりと翼を切断され、地面に落下していた。
「【極光】」
翼をもがれた鳥と同じように、ワイバーンは地を這うトカゲよりも脆弱だ。
当然、【極光】という威力と速さに優れた魔術を避けることは叶わず、バリアごと頭部を貫通され、生命機能を停止するのであった。
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