第百六十話
先程のは準備運動のようなもの(それにしては熱が入っていたが)であり、今から本格的な練習が開始されることになる。
東雲の一人に対して、俺とヴァルの二人がかりで模擬戦をすることになった。
実力差も踏まえた上で、一対二の状態を作り、モンスター相手にも機能するための連携術を身に着けるための訓練である。
ヴァルはいつも通り、大盾を構えたまま突貫していき、それに追随するようにして、俺も駆け出した。
(どうなるか)
ヴァルのタックルは強烈であり、車が突っ込んでくるような恐ろしさがある為、俺の場合は回避するしか術はなかった。
だが、ハイ・ライカン・スケルトンを軽くいなすほどの強さを持った東雲の場合は違う。
東雲が刀を音もなく構え、一閃すると、先程の静寂が噓のように轟音が響いた。
ヴァルの大盾へと放った、東雲の一撃はまるで竜の尾を無造作に振った時を幻視をしてしまうほどに、強烈な一撃であり、耐えることは当然できない。
ヴァルが数歩後ろに下がるのを尻目に、俺は東雲との間合いを一気に詰める。
俺は刀を振り切った状態から動いていない東雲に向かって、わざと隙を作っていると認識しつつも、斬撃を浴びせた。
(無理か)
俺の攻撃は、東雲の刀によってミリ単位のギリギリのところで止められる。
(身体強化をしているはずだよな?)
幾重にも身体強化系の魔術を発動し、瞬発力はヴァルに迫る勢いの筈であったが、東雲の刀は微動だにせず、彼女が力を込めているようにも感じられない。
鍔迫り合いのように見えるが、その実、俺が一方的に力を使わされており、拮抗しているとは口が裂けても言えない状況であった。
「次をどうぞ」
俺は必死の形相で刀を押し込んでいるのだが、東雲の刀は依然として全く動くことはなく、悔しさが顔に出そうになるのを抑え、なんとか距離を取る。
しかし、次の瞬間、俺が距離を取るのを予想していたのか、東雲は一気に間合いを潰してきたが、ヴァルが横から入り、大盾で攻撃を防いでくれた。
(初動が全く分からなかった)
本当にいつの間にか、という表現しかできないほどに、東雲の動きは自然であった。
ヴァルも一人では長くは持たない。
このタイミングを逃さないよう、俺は再び攻撃に転じようと刀を振るが、今度は二人同時に一薙ぎで弾き飛ばされてしまう。
(振動が)
ちょうど打ち込もうとしていたこともあり、東雲の一撃によって、反響するようにして伝わった衝撃は、俺の身体の動きを阻害した。
打撃を受け止めた時、似たような感覚になったことはあるが、これまでの戦闘で味わったモノとはまったくレベルの違う、ダメージであった。
(吐きそう)
その上、かなり飛ばされたので、距離が再び開いてしまった。
ヴァルも同様の状態であり、全く差を縮められていない。
「結構強くなっていますね」
東雲の賛辞に、俺たちは頷けなかった。
俺は既に疲労困憊であり、一気に体力を持っていかれている。
ヴァルも先程、俺と戦っていた時のような余裕は一切ない状態だ。
確かに、これまで以上に東雲が力を出してくれているのは分かるが、言葉を受け止められる余裕はない。
(頑張るか)
厳しい状況ではあるが、これはあくまでも練習、訓練である。
これが実戦であれば、心が折られそうにもなるだろうが、そんな時にも戦い続けるメンタルを持たなくては、今後生き残れない。
俺はヴァルと呼吸を合わせ、二人で一気に間合いを詰める。
十メートル以上あった距離は一瞬でなくなり、衝突音のみが響いた。
(くっ)
呼吸を合わせ、どちらかの攻撃は当たると思っていたが、東雲の一本の刀によって、俺とヴァルの攻撃は両方とも受け止められている。
俺は足、ヴァルは首を狙っていたのだが、何故か俺たちの武器は同じ場所を狙ったかのように、剣先が何もない宙を向いており、差は歴然であった。
俺はがむしゃらに前蹴りで東雲を蹴飛ばそうとしたが、読まれてしまったのか、刀を使って重心を崩されてしまう。
ヴァルも東雲の意識が俺に向いている瞬間を逃さずに、大盾を使って殴りかかったが、ひょいと躱されてしまい、逆に刀を首に添えられていた。
俺は床に倒れ込み、ヴァルは首筋に刀を添えられた状態、模擬戦の勝者は明らかであった。
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