表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/200

第百五十九話

 

 探索者協会にある訓練室にて、俺とヴァルは模擬戦をしていた。


「相変わらず、速いし、重いなっ!?」


 ゴム製の細剣を、同じくゴム製の刀で受け止める。それだけで手が痺れ、まともに機能しなくなりそうであり、次の攻撃も同様に受け止めてしまえば、それが現実になってしまう。


 身体強化系の魔術を複数使って、やっと対処できるほどに、ヴァルの身体能力は突出しており、人間を相手にする感覚は捨て去る必要があった。


 これは単に体幹が強い、力が強いだとか、だけでなく、超人的な出力が可能なヴァルの肉体を適切な身体操作によって余すところなく引き出された結果であり、まともな人間が正面から相手にすることはできない。


 素の状態で早々太刀打ちできるものではなく、俺は早々に身体強化の魔術を施した。


(これでまともに戦えるな)


 剣を受け止めても問題なく弾くことができている。俺は反撃しようと返す刀で肩に向かって剣を振ったが、大盾で防がれてしまう。


 互いに間合いを取ったが、呼吸を整える間もなく、ヴァルが大盾を構えた状態で突っ込んできた。


(厄介だな)


 俺としては、大楯による攻撃が、ヴァルの攻撃の中でも最も厄介である。


 細剣を使った攻撃は俺も刀を使って防ぐ、もしくは回避するといった、選択する余地があるが、大盾を構えた状態で突っ込んでこられると、防ぐという手段は消え、回避するしかなくなるからだ。


 行動を限定されてしまうと、戦いのセンスの差で上回られてしまう。


 ヴァルは素手でも強く、攻撃手段が特定の武器に限定されていないため、回避により過ぎてしまうと、状況をこちら側に傾けるのは至難となってしまうのだ。


(仕方ない)


 俺は回避を選択するが、ヴァルはその行動を読んでおり、移動しようとした方向には細剣が伸びていた。


 その攻撃を、俺はなんとか刀で弾く。細剣にもかかわらず、異常に重たい攻撃に、若干の苛立ちを感じながら、袈裟懸けに刀を振るった。


 今度はヴァルが大盾で攻撃を防いできて、更に大盾を振り回してきたので、俺は後ろに飛ぶことを選択する。


(こうなるとキツイな)


 俺は徐々に回避を強いられ始めていた。


 身体能力に関しては魔術による強化で、なんとか五分に近い状態にまでしているものの、武器術の練度や思い切りの良さ、センスそのものの差がじりじりとこちらを後手に回していく。


(これで、まだ、本気じゃない、とは)


 ヴァルは涼しい表情をしており、かなりの余裕が窺える。それに対して、俺は焦燥を隠すことができなくなりつつあった。


 ヴァルの攻撃に苛烈さが増し、本格的な戦闘に移ろうとした時、待ったが入った。


「お二人とも、それぐらいにしましょうか」


 かなり熱が入りそうになっていたタイミング、一瞬の間が生まれたせいで、俺の刀とヴァルの細剣がちょうど急所を寸止めしていた。


 俺は武器を降ろして、床にへたり込む。


 素の状態ではヴァルに戦いを成立させるのは難しいが、しっかりと身体能力を強化すれば、こうして模擬戦でも多少は戦えるようにはなっていた。


「ソフィか」


 俺が荒い呼吸をしながら、身体を整えていると、体長二メートル近い青い竜が視界に映る。


 ワイバーン戦後に出てきた卵から孵ったドラゴンの赤ちゃんは、短期間で急激に成長し、幼体と言えるほどには大きく成長していた。


「久しぶりだな」


 俺はのろのろと立ち上がり、ソフィの方に歩いていく。


 疲れもあったが、再会できたのが何となく嬉しく、頭を撫でようと手を出す。すると、今回は黙って受け入れてくれた。


(やったぜ)


 卵から孵った時は東雲以外には結構塩対応だったので、かなり嬉しい。


 まだまだ赤ちゃんだったので、当時の警戒心は限界まで引き上げられていたのだろう。


 優しく撫でると気持ちよさそうにしているので、今は人に対しての警戒心を解いてくれているようだ。


「じゃ、わたしも」


 俺が手を離し、今度はヴァルがソフィの頭を撫でようとした時、受け入れるのかと思いきや、ソフィはサッと手を回避する。


 明らかに拒否されたことで、ヴァルの身体は固まった。


「まだ、ヴァルはダメみたいですね」


 あっという間に東雲の後ろに隠れたソフィに、ヴァルは片方の口角を釣り上げる。


 少し、いやだいぶ、イライラしているようであった。


「まあまあ、ヴァル、落ち着けって」


 俺はヴァルの頭を撫でると、ガバっとこちらに抱き着いてきた。


「ごしゅじん、あいつきらい」


 ヴァルの中では、ソフィは“あいつ”認定されたようだ。


「ヴァル、伊藤さんに抱き着かない」


 東雲がするりと間合いを詰め、巧みな技術で、あっさりと俺からヴァルを引きはがす。


 俺がヴァルの顔を見ると、ニコッと笑みを浮かべ、誤魔化してきた。


(そんなことだろうと思ったよ)


 こんな一幕がありつつ、休憩を済ませ、息を整える。


「次は私と模擬戦をしましょうか」


 東雲が軽く訓練用の刀を振ると同時に、ゾワゾワとした感覚が背筋を抜けていった。


 先程のは準備運動、本格的な練習が開始されることになる。



読んでいただき、ありがとうございます。

今後とも、この作品をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ