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第百五十八話

 

「昨晩、いえ、今日は随分とお楽しみだったようですね」


 夕方ごろ、東雲が家に来たことで、俺とヴァルは目を覚ますことになる。


「仲良く二人リビングの床の上で抱き合いながら寝て、さぞ楽しい時間を過ごしたことでしょう」


 ニコニコ顔の東雲を前に、俺とヴァルは飛び起き、大慌てで正座した。


 東雲の視線が突き刺さる中、俺とヴァルは滝のような汗を流しながら、視線から逃げるように目を反らす。


 それから十五分ほど無言のまま、時間が過ぎていったのだが、一度、溜息を吐いた東雲はその後、ゆっくりと口を開いた。


「それで、特に怪我とかはしませんでしたか」


「すみませんでした」「ごめんなさい」


「仲間が深夜遅くまでダンジョンに潜っていたら、誰でも心配しますから、これからはもう少し自制心を持って臨んで下さいね」


 東雲の厳しさと柔らかさの綯い交ぜになった口調に、俺たちは黙って頷く。


「それで、怪我しなかったんですか?」


「結構危なかった」


「死にかけたと」


「はい」


「花眼人形ですか?」


 バレてる。俺たちがどのモンスター相手に苦戦したのかさえ、東雲にはお見通しのようだ。


「先日の伊藤さんが苦戦するとなったら、花眼人形くらいのものでしょう。あのモンスターは尖り切っていない分、弱点がほとんどないですから」


 そこからは東雲の花眼人形についての講義が始まる。


 花眼人形は速く、間違いなく強いモンスターであるが、Bランク探索者の中でも中堅程度の実力があれば、複数人で囲んで削れば問題はないモンスターなんだそうだ。


 花粉による動きの阻害も多少はあるが、それは連携でカバーができる。


 Bランク探索者になるほどであれば、連携力は熟練の域に達していることがほとんどであり、チームでの戦闘をすれば、特に障害にはならないらしい。


「基本的に四人一組で組んでいれば、問題はないモンスターです。私たちは三人ですが、要は隙が生まれなければいいだけですので、私が入っていれば、問題なく狩ることができていたでしょう」


「……俺としては、両断しても倒せなかったことを踏まえると、これまでのモンスターと比較して、かなり強いように感じたんだが」


 隙が無いのもそうだが、まさか両断しても倒しきれないとは思わなかった。


 俺の疑問にも合点がいったのか、再び口を開く。


「伊藤さんは豊富な攻撃手段を持っていますし、魔法の使い手です。これまでは魔法を使っていれば、容易に対処ができていたでしょう」


 東雲が一度言葉を区切り、甘さを排除した真剣な表情を作る。


「しかし、それはレベル200の壁を越えてからは、正確にはBランク初心者を抜け出してからは別です。ハイ・ライカン・スケルトンのことは覚えているでしょうか」


「勿論」


「でしたら、伊藤さんなら、分かると思います。ハイ・ライカン・スケルトンは、普通のBランク探索者では、かなり苦戦を強いられます。なぜか?それは遠距離で一方的に削るという手段が限られているからです。あの戦いは突発的なものでしたが、本来は連戦の中の一つの戦いに過ぎません」


「…そういうことか」


 俺の方でも合点がいく。


 ハイ・ライカン・スケルトンは強力な再生能力を保持した大型のモンスターだ。


 ヒグマが子供に見えるくらいのデカさ、ちょっとした動作がそのまま即死級の攻撃となるわけであり、接近して戦うには相応の実力がいる。


 にもかかわらず、高い再生力を持っているのだから、簡単に崩すことはできない。


 その時に重要になってくるのが、遠距離攻撃であるが、連戦で魔力を消費している魔法スキル持ちが、削り切るほどの魔法を撃つことができるのか?


 答えは、不可能である。


 そんなことができるのは、魔術という現存しない技術を保持している俺ぐらいのものであり、本来であれば、相応にリスクを負いながら戦う必要がある。


(それと同程度の強さであれば……)


 噛み合いが悪ければ、当然、苦戦するのは想像に難くない。


 特に、花眼人形は隙が無く、ウィークポイントのようなものがない。


 飛び級するような速さでレベルを上げて、階層を攻略している俺では、経験不足を解消できておらず、倒すことはできたものの、攻略できたというわけではなかった。


(マジで、調子乗りすぎてたな)


 Bランク探索者になれた喜びが探索の方でも出てしまっていた。


 探索者としての経験値は東雲が群を抜いて高い。モンスターの傾向や対処法に関しては、俺やヴァルなんて到底及ばない領域にある。


 ヴァルと二人で三十階層まで到達し、結果的には生存できたが、百回行って何回生きて帰れるのかは、あまり考えたくはないほどに危ういものだった。


 さっきとは別の意味で冷汗が出てくる。


 レベル200を超えても、あくまで探索者全体の中で上位になっただけであり、絶対的な強さからは程遠い現状は変わっていなかったことを認識したからだ。


「少し、訓練をした方が良いですね」


 ビクンと俺とヴァルが背筋を伸ばす。


 東雲との訓練とは、すなわち、地獄の始まりを意味するからだ。


(だけど、やるしかないな)


 このままでは、更に上を目指すことは叶わないのだから。



読んでいただき、ありがとうございます。

今後とも、この作品をよろしくお願いいたします。

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