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千夜一話物語【第三章「異世界勇者の解呪魔法」連載中】  作者: ぐぎぐぎ
千の夜と一話ずつのお話
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19回目 遠い世界の物語

「定時報告終わりっと」

僕はスマホをベッドに放り投げる、

画面にはラインが表示されている。

とりあえず友人関係全員と毎日必ず何かしらのコミュニケーションをしなければならず、

僕はめんどうなので毎日決まった時間にそれを行っていた。

いつも昼食をとりながらのついででやることが多いため、

休日の今日もやはり昼にコメントを投げる。

やることと言えば大体が他のみんなの言葉に相づちをうつくらいなのだが。


ごろんとベットに寝転がりながら窓の外の青空を見る、

流れる白い雲、車の音、鳥のさえずり、近所の住民達の話し声。

ラインの着信音が鳴る、定時報告の後は連絡があってもいつもは夕方のはずだけど・・・。


スマホの画面を見ると登録した覚えのないフレンドからメッセージが届いていた。

「誰かいますか?」

とそこにはあった。

「いたずら・・・?にしたって勝手にフレンド登録なんてできるもんじゃないし」

「誰?ブロックして良い?」

「ちょっまってまってまって、っていうかいた!私以外の人!!」

変な奴・・・、僕はスマホを放りだして冷蔵庫に向かった、

扉を開け取り出したミネラルウォーターの栓を開けてる途中に気づいた。

「そう言えば既読スルーって初めてだ」

こんな相手になんでとも思ったが少し罪悪感があった。

っていってもなんだか頭のおかしい人のようだし、関わらないにこしたことはないんだけど。


「君友達いないの」

気がついたら彼女に対して僕は返信を送っていた。

面倒なことになったら本当にブロックすれば良いだけのことだ。

その時はそんなつもりだった。

「うっ友達?いるよ?いるいる100人くらい!」

嘘つけ普通100人もいないっての。

「ブロックはしないでおくからやたらめったらメッセージ送るのはやめて」

「ほんと!?やったぁ!よろしくね佑羽」

いきなり呼び捨て、まぁいっか。

「よろしく天咲」

本当は僕はこのとき彼女の事を遠ざけておくべきだったのかも知れない、

少なくとももっと慎重になるべきだったのだ。

それをあとになってから後悔することになった。


天咲からのラインメッセージはやはりというかなんというか、

学校での授業中でもお構いなしに飛ばしてきた。

僕はもちろん全部に返信することもなく、

適当に内容をかいつまんで後でまとめて返信する。


佑羽君からの返信、正直片手間でやってるみたいなのが丸わかりだ。

だけど誰かとこうして繋がるのって。

「楽しい!」

私は両手両足を投げ出して草の上に寝転がる。

お日様の温もり草の匂い、昨日までは気づかなかった事も今はわかる。

「一人じゃ生きていけないもんね・・・」


「ありがとう佑羽」

天咲からの脈絡のないメッセージが来る。

なにがだろう?

まぁ彼女が満足してるならそれでいいか。

今度は彼女が言ってたコンビニの新商品でも食べて感想でも言ってみよう。

なんとなしにではあったけど、僕は天咲に対して

今までの友達より少し近い物を感じ始めていた。

そんな僕を見る友達の一人の川崎雪野の目が前と変わり始めていることにも気づかないまま。


僕が天咲からのメッセージに違和感を覚えるようになったのはそれから少ししてからだった。

コンビニの新商品がどこにもなく、ネットで調べてもそんな商品が扱われた記録はなかった。

そして彼女を僕の友達に会わせようと思いまず二人で会う約束をした時も、

同じ場所にいるはずなのに妙に話が噛み合わず、結局会えなかった事。


それから天咲の様子がどこかおかしくなった。

送ってくるメッセージは前と同じなのに、なにか妙に淡々としているような、

それまでの自分を装おうとしているような。そんな雰囲気。


雪野が僕のスマホを盗み、僕を装って彼女に酷いことをメッセージした時も、

彼女はすんなりと僕の言い分を聞き入れ許してくれた。

いつもと話し方が違うからすぐわかったって、怒る様子すらなく。

雪野は会ったこともない天咲に僕がこんな形で取られるのは嫌だと泣いた、

その気持ちは僕には理解できなかったけれど、だけどこれが普通のはずだ。

天咲だってきっとこんな風に取り乱すのがあたりまえで、

彼女はなにかを僕に隠しているのだと、僕は愚かにもそれを知ろうとしてしまったのだ。


それに気づいたのはやはり天咲の方だった、

僕たちのいる世界は別の世界。

とてもよく似た違う世界に僕らは存在している。

そして天咲のいる世界はあと一ヶ月で滅びてしまうのだと、彼女は教えてくれた。

もう彼女の同年代の人間もいないのだと。


そんなことあり得ないと僕は笑った、だってそんなの一人の女の子が抱えきれる問題じゃない。

もし彼女がそんな状況にいるなら、僕になにができる、僕にだって抱えきれない。

本当なら僕はもう彼女と向き合えない。そんな資格無い。


それを知ってから僕はスマホを家に置き去りにするようになった。

周りになにを聞かれても口を閉ざし、ただすぎていく時の流れをカレンダーで眺めていた。

彼女の世界の終わりまで後一週間、後一週間で終わる。

僕は卑怯者だ。


そんな僕をある日雪野が殴った。

責任を取れと彼女は言った、私以外の女を泣かせるなんて許さないと。

そして友人達がみんな天咲と話してみたいと言い出した、

みんなで抱えれば向き合えるでしょと。そう言っていた。

僕だけが彼女の力になれる、みんなはそう言いたいって事はすぐにわかった。

なれ合いなんかじゃない、みんなは僕に彼女を見捨てるなと、優しさで思い知らせている。

僕はもう逃げられなかった、それにもう逃げたくなくなっていた。

「雪野いろいろごめんな、おかげで目が覚めた」

「謝るな、いいからさっさとやることやれ!いくじなし!」

そういって僕を送り出した雪野は少し赤い目をして笑っていた。


天咲と僕はまた会う約束をした。

今度はすれ違わないように場所や時間を決めて。

見晴らしの良い丘の上、街並みと海と水平線が輝いている。

寝転がると青い空と流れる雲。

ラインの着信音。

「ついたよ」

やはり天咲の姿はないが、彼女のメッセージはそう言っていた。


僕は体を起こすとその場に座る。

「ここにいるよ」

彼女にメッセージを送る。

僕の都合の良い幻想かもしれない、でも隣に彼女が座ったような気がする。

これで最後だと感じた、もう一緒にいられない、そう感じる。


僕らはいつもみたいにラインでとりとめのない話をした、

くだらない話をして一緒に笑って。

いつもみたいに時を過ごした。


日が落ちて海の向こうに夕陽が沈んでいく、

冷たい風が水平線の向こうから流れてきて、

ふと左手に誰かの温もりを感じた。

まるで誰かの手のような感触、僕はそれをたぐり寄せ握りしめる。

「今私佑羽の手を握ってる」

そう彼女からのメッセージが届く

「あったかいんだなお前の手」

僕は彼女にそう返し、彼女のいる方に顔を向ける。


唇にふと何かが触れたような気がした。

「ありがとう佑羽」

彼女からのメッセージが届く。

「僕を選んでくれてありがとう天咲」

僕からのメッセージに既読のマークがつく。

夕陽が沈む一瞬世界が燃えるように金色の光に包まれ、強い風が吹き抜けていった。


静寂。


彼女からの返信はこない、

これからきっとずっと、もう二度と。


彼女が生きていた証として、僕はこれからも生きていく。

一人で泣いていた僕の元に友人達がかけつけてきて、

僕は強がって笑ってみせた。


別れの間際、天咲が僕にそうしたように。

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