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治癒の神官と殺戮卿  作者: Yulz
第一章

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14/30

第14話 不穏

退院しました~~~~!

ので、最新話を投稿します。

 アンジェロの葬儀は二日後に決まった。

 ユステルは最初、使用人と同じような服装で端のほうに並ぼうと考えていたが、これは伯爵夫人、ナザディアから却下された。

 友人として来た客を使用人の列に並べるわけにはいかない、ということだ。

 そして、多くの住人、とりわけトリストを含むアンジェロの部下たちは、ユステルが友人として参列していると知っていてなお、神官としての振る舞いを求めた。

 不運に見舞われ、失意の中で命を落とした主に少しでも報いたいという、彼らなりの忠誠だった。

 ユステルは友人の立場を崩したくないと言ってそれを断ったが、あまりにも熱心な者が多いため、ナザディアとともに折衷案をとった。


 葬儀には神官服で参列する。

 しかし、葬儀の進行中に神官としての儀式や振る舞いはしない。

 外向けの葬儀が終わったあと、邸の中で内々向けとして別離式を行う。

 段取りとしては、伯爵の死を知らしめる葬儀のあと、邸の中で別離式を行って、邸の裏にある霊廟へ遺体を納める、というものになった。


「何故、教会の別離式を公開なさらないのですか?」

「我々もアンジェロ様に別れを告げたく思います」

「伯爵夫人、どうか……」


 領民たちからは不満が漏れたが、ナザディアは壁のように立ちはだかる彼らを前に、めりはりのある顔立ちに悲しげな表情を浮かべて、たった一言もらしただけだった。


「どうかお察し下さい」


 この一言で領民たちは一斉に口をつぐんだ。

 かわりに、ナザディアを慮る声が彼らの中に満ちた。


「ナザディア様、おいたわしや」

「元々アンジェロ様もご家族のことは溺愛しておいでだったからな。

 突然の事だったし、ゆっくりと死別を受け入れる場が欲しいのかもしれない」

「これまで公務に費やしてきた時間が多すぎた。

 あの方にも家族としての時間が必要だろう」

「神官様、どうか伯爵夫人に魂の癒しをお与え下さい」


 領民たちは同情的な顔をしてナザディアとユステルの前を辞したが、当のナザディアは邸の中に戻ってから平然とした表情に戻り、鼻息を一吹きした。


「これで余計な口出しをする者は減るでしょう」


 ユステルは彼女の貴族としての手腕を垣間見た気がした。

 そして彼女もまたアンジェロと同じように、現実主義なのだとも感じた。


(さすがは俺の妻だな。

 心配はしていなかったが、実際に目にすると感慨深いものがある)

(ごちそうさまです)


 その日、アンジェロはずっと得意げだった。




 葬儀の日、ユステルは神官服で弔客の列の末尾にならぶことになった。

 領内に教会がないので、葬儀は邸の前庭で執り行われる。


 この日の門は開け放たれており、邸の外にはアンジェロとの別れを惜しむ領民がひしめいていたが、彼らは邸の中までは入ろうとしなかった。

 アンジェロが普段どのように公務を執り行っていたかはわからないが、少なくとも彼らはアンジェロに、ひいてはドラウキン伯爵一族とその邸に、貴族としての敬意を払っているようだ。

 感情が暴走して泣き崩れるような者すらいたが、それでも葬儀の前に邸に入るような者がいないところに、ユステルはドラウキン領の治世の成功を感じた。


 邸の外には人垣が出来ている反面、邸の中へ入ってくる来客、つまり身分ある弔客はほとんどいなかった。

 驚くべきことに、ドラウキン伯爵領は凄まじい富と力を持っているというのに、貴族や商人のパトロンにはなっていないという。

 代わりに、近隣に熱心な信奉者がいるようで、彼らは葬儀が始まる前から悲嘆を隠しきれない様子だった。


(どうしてパトロンにならなかったんですか?)

(支援を願い出る者はそこそこいたが、全て蹴った。

 何に使うかもわからないのに、金だけよこせと言われても頷けないだろう)

(では、今いる彼らは?)

(支援はしていないが、対等な取引相手として遇している。

 彼らも貴族や商店の当主であるなら自らの足で立つべきだ)


 ユステルはこの言には首をひねった。

 王都にいるとき、頓に顔を合わせる事のあった高位貴族や富豪たちは、皆こぞって自らのちからを示したがり、その中にはいかに多くの貴族が自分の支援を受けているか、という話も含まれていた。

 そして、支援者の数をひけらかして鼻をふくらませている彼らですら、さらに上位の誰かに支援を受けている。

 この王国の貴族や富豪はそういうあり方をしているのだとユステルは思っていた。


 しかし、数は少なくとも葬儀に並ぼうと参じた彼らからは、王都にいる貴族のような、ぎらついたものは感じない。

 少なくともアンジェロを喪った事を悲しんでいることは事実であるように思えた。

 ユステルはこの在り方のほうが美しいと思った。


(ユステル、顔を伏せて祈ってるふりをしろ)

(どうしましたか?)

(ここにいるには不自然なやつが何人かいる)


 不意に、アンジェロがそのような事を言い出した。

 ユステルはそれに従いつつも、耳をそばだてて周囲の言葉に意識を向ける。

 間諜の訓練をしているわけではないが、邸の中で葬儀の開始を待っている人数は少なく、今や待機場となったホールの入口でナザディアと誰かが話している声が聞こえてきた。


「ようこそおいで下さいました、イウフィフィ伯爵」

「ドラウキン伯爵夫人、出迎えに感謝する。

 この度は大変な不幸があったようで、当方としても驚きが隠せない」

「その様に言って頂けるならば、あの方も喜んで下さると思います。

 どうぞ、弔問席の奥へおかけ下さい」


 イウフィフィ伯爵と呼ばれた男は、アンジェロとはまた違う、苦み走った声をしている。

 歩く靴音は軽いので、恐らくドラウキン領民のような大柄なものではなく、普通の王国貴族なのだろう。

 ユステルはそのような事を考えていたが、足音がまっすぐに自分の元へと向かってきたので、思わず身構えた。


「驚いたな。ドラウキン領で神官の姿を見る事になるとは。

 あの男の葬儀に教会のものが参列しているとは、失礼ながら存じ上げなかった。

 教会から出された弔問客かな?

 それとも彼と契約していた治癒師かね?」


 座っているユステルの頭の上に声が降ってくる。

 どこかひんやりとしたものを感じさせる物言いは王国貴族そのものだ。

 ユステルは腹をくくって立ち上がり、すぐそばに立っている男の顔を見た。


「私にお尋ねでしょうか」

「他に神官服を着たものがいるか?」


 壮年の男の言葉には感情が乗っていない。

 しかし、その眼の奥では、獲物を見つけた獣のような光が燃えている。

 ユステルは自然、王都でそうしていたように、貴族への礼を取った。


「失礼致しました。

 ブリオノール教会、助祭のユステルと申します。

 この度はドラウキン伯爵の友人として葬儀に並ばせて頂いております」

「ほう! 助祭か。

 教会の中で身分を得られるものは、貴族出身のものか治癒師だけだ。

 あなたには貴族の徴がない。

 神官殿、あなたは治癒師だな?」

「そこまでにして頂けますか」


 遠慮なく切り込んでくるイウフィフィ伯爵の猛攻を止めてくれたのはナザディアだった。

 しかし、伯爵は言葉を切りはしたものの、その目をユステルから離そうとはしない。


「イウフィフィ伯爵、本日は弔客としてご参列頂いたはずですが、ここへは何をしに来られたのですか?」

「ああ、失礼した。

 ずっと教会と距離をおいていたドラウキン伯爵家に神官がいるという一大事に、つい心が動いてしまったようだ」

「彼は主人の弔客としてここに参列して下さっています。

 おわかり頂けますか?」

「……いいだろう。まずはあの男を見送るのが先だ」


 伯爵はそう言って弔問席の一番前、広く開けられた席に、同行者と共に腰を下ろした。

 彼は動き出す瞬間まで、ユステルから目を離さなかった。

 ユステルはぞわぞわと背筋を這い上がるものを感じた。


(アンジェロ、あの方はどういう方ですか?)

(この領に入る前、やたらと人の多い街を通り過ぎただろう。

 あのあたりを取り仕切っている伯爵だ)

(あの方もアンジェロの信奉者なのですか?)

(信奉者?

 いや、特に仲を深めたり、特別に取引をしていたわけではない。

 交通の要衝に陣取っているから、大きな取引がある時には話を通していた、という程度だ)


 ユステルは伯爵の背中を見た。

 周囲の取り巻きはこちらを見ながら何かと伯爵に話しかけているが、当の伯爵はこちらを振り返ったりはしていない。

 しかし、その背中には立ち上るものが見えたような気がした。


(あの人が葬儀に来た理由は何でしょうか)

(額面の大きい取引が多かったから、あいつが来る事自体は不思議じゃない。

 それより、周りにも気をつけろ)

(どういうことですか?)

(あいつの取り巻きに見たことのない顔が混じっている。

 葬儀の参加者にも、普段ほとんど関わりのなかった奴らがいる。

 使用人は妻の管轄だから、新しい使用人を入れていたとしても、俺にはわからん。

 今の段階では、どいつが敵なのか、判別がつかない)

(…………)

(味方だと思っているやつが敵になっている事も考えられる。

 印象だけで判断するな)


 ユステルは自分の気持ちが重く沈んでいくのを感じた。

 ただ亡くした悲しみを共有することすら出来ない貴族の在り方、それ自体が悲しかった。


お読み頂きありがとうございます。

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宜しくお願いします。

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