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サッカークラブメイキング 〜ど素人社長、丸投げされる?〜  作者: 双鶴


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53/55

第53話 街が動き、選手が変わる

 クラファン公開から二週間。

 宇和島オレンジエクストリームの名前は、

 街のあちこちで聞こえるようになっていた。


 商店街の八百屋では、

 店主が客に向かって言っていた。


「ほら、これ見てみ。

 オレンジエクストリームのクラファン、すごいんよ。

 子どもらのためにボール配るんやと」


 喫茶店では、常連客が新聞を広げながら話していた。


「背中スポンサー、商工会らしいで」

「勝手連も金出したんやろ? すごいなぁ」

「なんか、街がひとつになっとる感じするわ」


 岳は、そんな声を耳にするたび、

 胸の奥がじんわりと熱くなった。


(……街が、動いてる)




 クラブ事務所では、

 大畑監督が選手たちを集めていた。


「みんな、聞いてくれ」


 監督の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


「クラファンの支援が、想像以上に伸びている。

 街の人たちが、俺たちに“期待”している証拠だ」


 選手たちは、真剣な表情で聞いていた。


「でもな」


 大畑監督は、ユニフォームを手に取った。


「期待されるということは、

 “責任”を背負うということだ」


 胸のロゴを指で叩く。


「これは、親会社の顔や」


 背中を叩く。


「これは、街の顔や」


 袖を叩く。


「これは、地域の声や」


 パンツを叩く。


「これは、応援してくれる人たちの“気持ち”や」


 選手たちは、誰も動かなかった。

 ただ、監督の言葉を全身で受け止めていた。


「このユニフォームを着るということは、

 “自分のためだけにサッカーをする”という意味ではない」


 監督の声は、静かだが強かった。


「街のために走れ。

 仲間のために走れ。

 宇和島のために走れ」


 その言葉は、

 選手たちの胸に深く刺さった。




 練習が始まると、

 選手たちの動きが明らかに変わっていた。


 声が大きくなった。

 走る距離が伸びた。

 パスの精度が上がった。

 球際の強度が増した。


 岳は、練習場の端でその光景を見ていた。


(……変わった)


 選手たちの表情が違う。

 目の奥に、強い光が宿っている。


 大畑監督が、岳の横に立った。


「たけしさん。

 クラファンの数字より、こっちの方が大事ですよ」


「……はい」


「街が動けば、選手も動く。

 選手が動けば、街も動く。

 それが“クラブ”です」


 岳は、胸が熱くなった。


(これが……クラブなんだ)




 その日の夕方。

 岳は、クラファンの管理画面を開いた。


 支援者数は、すでに千人を超えていた。

 コメント欄には、こんな言葉が並んでいた。


「宇和島の子どもたちのために」

「選手たちの姿に感動しました」

「ユニフォーム、めっちゃかっこいい!」

「街の誇りです」

「勝手連の者です。頑張れ!」


 岳は、画面をスクロールしながら、

 何度も息を呑んだ。


(……こんなにも、応援してくれる人がいるんだ)


 胸が震えた。




 夜。

 岳は帰宅し、晃にクラファンの数字を見せた。


「パパ! すごいじゃん!

 もうこんなに仲間がいるんだ!」


「……ああ」


「パパのクラブ、ほんとに“街のクラブ”になってきたね」


 晃の言葉に、岳は目を細めた。


「そうだな……

 街が、俺たちを育ててくれてる」


 晃は、ユニフォームの写真を見ながら言った。


「パパ。

 このユニフォームで勝ったら、

 街の人、めっちゃ喜ぶよね」


「……ああ。

 でもな、勝つだけが目的じゃない」


「うん。

 “宇和島を一等賞にする”んだよね」


 岳は、胸が熱くなった。


「そうだ」




 その夜、岳はひとりでベランダに出た。

 夜風が、少し冷たい。


 遠くに、宇和海の気配がある。

 街の灯りが、静かに揺れている。


(街が動き始めた。

 選手も変わった。

 クラブが……前に進んでいる)


 スマホが震えた。

 クラファン担当者からのメッセージ。


『中盤としては、異例の伸びです。

 この調子なら、後半戦も期待できます』


 岳は、夜空に向かって小さく呟いた。


「……宇和島を、一等賞にしないとな」


 その言葉は、

 静かに夜の中へ溶けていった。


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