表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サッカークラブメイキング 〜ど素人社長、丸投げされる?〜  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/55

第50話 焼け石に水と、奇跡の夜

 ユニフォームスポンサーの相場を調べた岳は、

 パソコンの前で固まった。


(……胸スポンサーで数十万……?

 背中で十万〜五十万……?

 袖やパンツなんて、数万円……?)


 数字を見れば見るほど、

 胸の奥が冷えていく。


(これじゃ……赤字一千二百万円なんて、焼け石に水だ……)


 クラファンの赤字は膨らみ続けている。

 ユニフォーム制作費も、リターンの原価も、

 クラブの財政を容赦なく削っていく。


(スポンサーを集めても……埋まらない……)


 岳は、机に突っ伏したくなる衝動を必死でこらえた。




 それでも、動かなければならない。


 岳は、宇和島市内の中堅企業を何件も回った。

 名刺を差し出し、クラブの理念を説明し、

 クラファンの目的を語り、

 街と子どもたちの未来を話した。


 だが――


(……言い出せない)


 胸スポンサー、背中スポンサー、袖スポンサー……

 どれも「お金をください」と言うのと同じだ。


 クラブの理念は語れる。

 夢も語れる。

 街の未来も語れる。


 だが――


(スポンサー料の話になると……口が動かない)


 何件回っても、

 最後の一歩が踏み出せなかった。


「北島さん、また来てくださいね」

「応援してますよ」

「クラファン、見ましたよ。すごいですね」


 どの会社も優しかった。

 だからこそ、言い出せなかった。


(……俺は、代表失格だ)


 岳は、会社近くの居酒屋にふらりと入った。




 カウンター席で、同僚がビールを飲んでいた。


「お、キタさん。どうしたんすか、そんな顔して」


「……スポンサーの件で」


「クラブの?」


「うん……言い出せないんだよ。

 “お金ください”って言ってるみたいで……

 街の人は優しいし、応援してくれるし……

 だからこそ、言えないんだ」


 同僚は、ビールを置いて言った。


「キタさん。

 言いにくいのは分かるけど……

 クラブのために頭を下げるのは、恥じゃないっすよ」


「……」


「むしろ、キタさんが頭を下げたら、

 “ああ、このクラブは本気なんだな”って伝わると思う」


 岳は、グラスを握りしめた。


「……そう、かな」


「そうっすよ。

 キタさんは、クラブの“顔”なんだから」


 その言葉が、胸に染みた。




 数日後。

 奇跡が起きた。


 居酒屋での会話を、

 “たまたま聞いていた人”がいたのだ。


 その人は、宇和島商工会の関係者だった。


 商工会から電話がかかってきた。


「北島さん。

 背中スポンサー、うちでやらせてもらえませんか?」


「……え?」


「宇和島のクラブでしょう?

 だったら、商工会が背中を押さないと」


 岳は、言葉を失った。


「……ありがとうございます……!

 本当に……ありがとうございます……!」


 電話を切ったあと、

 岳は机に突っ伏して泣いた。




 さらに奇跡は続いた。


 袖スポンサーには、

 地元コミュニティ誌「うわじまっくす」が名乗りを上げた。


「地域の情報誌として、

 地域のクラブを応援しない理由がありません」


 パンツスポンサーには、

 「サポーター勝手連」という地元有志の集まりが手を挙げた。


「金額は大きくないけど……

 気持ちはデカいけん!」


 岳は、震える手でメモを取りながら、

 涙が止まらなかった。


(……街が……

 街が、クラブを支えてくれてる……)




 岳は、スポンサー一覧を抱えて社長室へ走った。


「社長!!」


「なんや、たけし。えらい顔しとるな」


「背中スポンサー、商工会さんが……!

 袖は“うわじまっくす”さんが……!

 パンツは“勝手連”の皆さんが……!」


 岳は、涙声で報告した。


 三好大悟は、しばらく黙って聞いていた。


 そして――


「……よくやった」


 豪快に笑った。


「大盤振る舞いや!」


 三好は、胸スポンサーの欄に

 “宇和島オレンジトレーディング 500万円”

 と書き込んだ。


「しゃ、社長……!?

 予定額の……数倍じゃ……!」


「ええんや。

 街がここまで動いたんや。

 親会社が動かんでどうする」


 岳は、声を上げて泣いた。


 三好は、みかんジュースを一本渡しながら言った。


「たけし。

 これで、ユニフォームは“宇和島の誇り”になるぞ」


 岳は、涙でぐしゃぐしゃの顔で頷いた。


 クラブは、

 街とともに、

 確かに前へ進み始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ