44話 家族の食卓と、クラウドファンディングの火種
その日の夜。
北島家の食卓には、
美咲の作った煮物の香りが広がっていた。
岳は箸を動かしながら、
どこか元気がなかった。
美咲が気づいた。
「たけちゃん、今日はちょっと疲れてる?」
岳は苦笑した。
「……まあ、ちょっとな」
晃も顔を上げた。
「パパ、なんかあったん?」
岳はしばらく黙っていたが、
やがて静かに口を開いた。
「市外を回ったときにな……
“宇和島だけの街おこしでしょ”とか、
“うちらには関係ない”とか、
そんな声を聞いたんだ」
美咲は眉を寄せた。
「そんなこと言う人もいるんだね……」
「まあ、分かるんだよ。
宇和島のクラブなんだから、
市外の人にとっては他人事なんだろう」
岳は続けた。
「それに……
街の中でも、ちょっとした“アンチ”が出てきてる。
“調子に乗ってる”とか、
“優遇されてる”とか……
そんな声も聞いた」
晃は箸を置いた。
「パパ、落ち込んでる?」
「……正直、ちょっとな。
みんなに応援してもらいたいけど、
全員がそうじゃないって分かって……
なんか、胸が重くて」
その言葉に、
美咲と晃は顔を見合わせた。
晃が先に口を開いた。
「パパ。
街のみんなと“一体化”したいんでしょ?」
「……ああ。
クラブは街のものだからな」
「だったらさ──
クラウドファンディングやればいいじゃん」
岳は驚いた。
「クラウドファンディング……?」
「うん。
“街のためのプロジェクト”としてクラブがやるんだよ。
例えば、旧三間中の整備とか、
子どもたちのサッカー環境を良くするとか、
街のための目的でさ」
晃の目は真剣だった。
「支援してくれた人は、
市外の人でも“仲間”になる。
愛着とか、思い入れとか、
そういうのが生まれるんだよ」
岳は息を呑んだ。
晃は続けた。
「パパが言ってた“街と一緒に作るクラブ”って、
そういうことなんじゃないの?」
美咲も微笑んだ。
「晃の言う通りだと思うよ。
たけちゃんは、
“街の人に応援されたい”って思ってるけど……
応援って、お願いするだけじゃなくて、
“関わってもらうこと”でも生まれるんじゃない?」
岳は二人の顔を見た。
胸の奥が、
じんわりと温かくなる。
「……そうか。
関わってもらう……か」
美咲が優しく言った。
「たけちゃんは、
いつも“自分が頑張らなきゃ”って思いすぎなんだよ。
もっと街の人を頼っていいんだよ」
晃が笑った。
「パパ、クラウドファンディングやろうよ。
街のために。
クラブのために。
パパのために」
岳は深く息を吸い、
ゆっくりと吐いた。
そして──
静かに頷いた。
「……分かった。
やるよ。
クラウドファンディングをやる。
街と一緒に、クラブを作るために」
美咲が嬉しそうに笑った。
「たけちゃんの決意、聞いたよ」
晃も拳を握った。
「パパ、絶対うまくいくよ!」
その夜、
北島家の食卓で生まれた小さな決意は、
やがて街全体を巻き込む大きな波になる。
クラブの未来は、
ここからまた一歩進んだ。




