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サッカークラブメイキング 〜ど素人社長、丸投げされる?〜  作者: 双鶴


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38/55

38話 ど素人社長とサッカーを楽しむ会

 土曜の午前。

 旧三間中のグラウンドには、

 いつもとは違う賑やかな声が響いていた。


 「ど素人社長とサッカーを楽しむ会」

 ──地域交流イベントの第一弾。


 対象は小学生。

 参加者は予想の倍以上。

 保護者も含めると、グラウンドの半分が人で埋まっていた。


 北島岳は、

 その中心で立ち尽くしていた。


「えー……みんな、今日は来てくれてありがとう。

 社長の北島です。

 サッカーは……あんまり……得意じゃないです」


 その瞬間、

 小学生たちの間にざわめきが走った。


「え、社長なのに?」

「サッカーの社長なのに?」

「ど素人なん?」

「逆におもろい!」


 笑いが起きた。


 岳は苦笑しながら続けた。


「だから、みんなに教えてもらいながら、

 一緒に楽しめたらと思ってます」


 その言葉に、

 小学生たちの目が一斉に輝いた。


「社長、パス出して!」

「社長、こっちこっち!」

「社長、走って!」

「社長、遅い!」


 岳は完全に翻弄されていた。


 ボールは足につかない。

 パスはずれる。

 トラップは跳ねる。

 シュートは枠に飛ばない。


 だが──

 小学生たちは大喜びだった。


「社長、下手すぎて逆に楽しい!」

「社長、もう一回!」

「社長、走れー!」


 岳は息を切らしながら笑った。


「……みんな、容赦ないな……!」


 その様子を見ていた選手たちは、

 最初は苦笑していたが、

 やがて自然と輪に入っていった。


「社長、そこはインサイドです」

「社長、ボール見すぎです」

「社長、走る方向逆です」


 颯が笑いながら言うと、

 小学生たちが一斉に叫んだ。


「社長、逆ー!!」


 岳は頭を抱えた。


「もう分からん!!」


 その瞬間、

 グラウンドが笑いで揺れた。


 やがて、

 小学生の一人が言った。


「選手のお兄ちゃんたちも混ざってよ!

 試合しよ!」


 その声に、

 他の子どもたちも一斉に叫んだ。


「やりたい!」

「試合したい!」

「お兄ちゃんたちとやりたい!」


 大畑が腕を組んで言った。


「……たけしさん。

 これはもう、やるしかないですね」


「え、俺も出るの?」


「もちろんです。

 “ど素人社長と楽しむ会”ですから」


 岳は天を仰いだ。


「……地獄だ……」


 だが、

 小学生たちはすでにチーム分けを始めていた。


「社長はこっち!」

「お兄ちゃん二人こっち!」

「そっち三人強すぎ!」

「じゃあ社長そっちに貸す!」


 完全に子ども主導だった。


 そして──

 イレギュラーなミニゲーム大会が始まった。


 小学生 vs 選手+社長

 小学生+社長 vs 選手

 小学生+選手 vs 小学生+選手

 社長 vs 小学生全員(地獄)


 試合はめちゃくちゃだった。

 だが、

 笑い声が絶えなかった。


 岳は転び、

 颯は本気で走れず、

 直斗は子どもに抜かれ、

 慎は小学生に囲まれ、

 亮太はゴール前で倒れ込んだ。


 大畑は腕を組んで見ていたが、

 口元はわずかに笑っていた。


「……悪くないですね。

 こういう空気は」


 イベントが終わる頃、

 小学生たちは汗だくで笑っていた。


「また来る!」

「次は社長から点取る!」

「お兄ちゃんたち、また遊んで!」


 岳は膝に手をつきながら笑った。


「……ありがとう。

 またやろうな」


 その声は、

 自然と出たものだった。


 帰り際、

 大畑が岳に言った。


「たけしさん。

 今日のあなたは、

 “社長”ではなく“街の人”でしたね」


「え、どういう意味?」


「街に愛されるクラブは、

 こういうところから始まります」


 岳はゆっくりと頷いた。


 十一人の選手。

 街の子どもたち。

 笑い声。

 泥だらけのスパイク。


 クラブは、

 確かに動き始めていた。


 まだ弱い。

 まだ形になっていない。

 だが──

 街の中に、小さな火が灯った。


 その火は、

 これから大きくなっていく。


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