37話 慌ただしい準備
大畑が正式に監督を引き受けた翌日。
宇和島オレンジエクストリームは、
初めての地域イベント──
「サッカーを楽しむ会」の準備に追われていた。
対象は小学生。
クラブとして地域に開く“最初の一歩”だ。
「たけしさん、これボール何個必要ですか?」
颯が倉庫から顔を出す。
「んー……二十個あれば十分か?」
「いや、三十はいるでしょ」
直斗が即座にツッコむ。
「子どもって一個ずつ持ちたがるしな」
慎が冷静に補足する。
岳はメモ帳を見ながら、
慌ただしく動き回っていた。
「ビブスは……小学生サイズが足りん!
あとコーンも追加で……」
「たけしさん、落ち着いてください」
大畑が静かに声をかけた。
「イベントは“楽しむ”ことが目的です。
完璧である必要はありませんよ」
「いや、でも……
初めての地域イベントですし……」
「だからこそ、
“クラブの空気”を感じてもらうことが大事なんです」
大畑は片付け途中のグラウンドを見渡した。
「子どもたちが笑って帰れば、それで成功です」
岳は少し肩の力を抜いた。
「……そうですね」
そのとき、三崎陽斗が声を上げた。
「岳さん、これ見てください!」
陽斗が持ってきたのは、
手書きの“ミニゲーム案”だった。
「ドリブル鬼ごっこ、
パス回しリレー、
あと……“キーパーに挑戦!”ってやつも考えました」
「キーパーに挑戦……?」
岳が読み上げた瞬間、
大畑がわずかに目を細めた。
「……面白いですね。
子どもたちが楽しめる内容です」
だが、その裏で──
GKがいない現実が静かにのしかかる。
慎がぽつりと言った。
「……キーパー役、どうします?」
岳は固まった。
「……あ」
「たけしさん」
大畑が静かに言う。
「イベントはイベント。
しかし、GK問題は現実です」
岳は深く頷いた。
「……分かってます。
でも、まずはこのイベントを成功させます。
地域に“クラブがある”って知ってもらうために」
大畑は微笑んだ。
「それでいい。
順番を間違えなければ、道は開けます」
夕方。
準備を終えたグラウンドには、
コーンとミニゴールが並び、
明日の賑わいを待っていた。
岳は空を見上げた。
「よし……やるぞ。
明日は、クラブの“初めての一歩”や」
その声に、
十一人の選手たちが力強く頷いた。




