32話 大畑悠斗、覚悟の訪問
公開トライアウトから数日。
十人の選手が仮合格として練習を続ける旧三間中のグラウンドには、
夕陽が差し込み、選手たちの影が長く伸びていた。
練習が終わり、選手たちが帰っていく中──
岳は一人、片付けをしていた。
その背後から、静かな声がした。
「たけしさん」
振り向くと、大畑悠斗が立っていた。
その表情は、いつもより少しだけ硬い。
「……大畑さん?」
「話があります。少し、時間をいただけますか」
岳は頷き、二人は校庭の端に並んで立った。
大畑はしばらく沈黙し、
夕陽を見つめたまま口を開いた。
「たけしさん。
私は“監督候補”として、このクラブ作りに参加してきました」
「はい」
「選手を見て、街を見て、
そして……あなたを見てきました」
岳は息を呑んだ。
「今日、結論を持ってきました」
大畑は岳の方を向いた。
「私は──監督を引き受ける覚悟を決めました」
岳の胸が熱くなる。
だが大畑は続けた。
「ただし、その前に……
あなたの覚悟を、もう一度確かめたい」
「……覚悟、ですか」
「はい。
監督を置くということは、
クラブが“本気で戦う”ということです」
大畑の声は静かだが、重かった。
「責任も、批判も、失敗も、
すべてあなたが背負うことになる。
それでも進めますか」
岳は拳を握った。
「進みます」
「選手たちの人生を預かる覚悟はありますか」
「あります」
「街の期待を裏切る日が来るかもしれない。
それでも前に進めますか」
「前に進みます」
「あなた自身の人生の時間を、
このクラブに捧げられますか」
岳は迷わず答えた。
「捧げます。
このクラブのためなら、何だってやります」
大畑はゆっくりと頷いた。
「……分かりました。
たけしさんの覚悟、確かに受け取りました」
そして、はっきりと言った。
「私が監督を引き受けます」
岳は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
大畑は静かに言った。
「これから先、何度も試されます。
そのたびに、今日の覚悟を思い出してください」
「はい!」
夕陽の中、
宇和島オレンジエクストリームは
正式に“監督”を得た。
だが──
岳はまだ知らなかった。
チームには、決定的に欠けているものがあることを。




