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サッカークラブメイキング 〜ど素人社長、丸投げされる?〜  作者: 双鶴


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23/55

23話 彷徨う社長

 金曜日の朝。

 北島岳は、会社の駐車場に車を停めたまま、しばらくエンジンを切れずにいた。


 昨日の“分社化宣言”。

 そして、自分が新会社の社長に指名されたという現実。


 胸の奥に、まだ熱が残っている。

 だがその熱は、喜びだけではなかった。

 責任、覚悟、そして――恐れ。


(……本当に、俺でいいのか?)


 そんな弱さが、ふと顔を出す。

 だが同時に、昨日の会議室で聞いた拍手の音が、耳の奥で蘇る。


――たけしは一人じゃない。


 三好社長の言葉。

 社員たちの表情。

 あの瞬間、確かに“仲間”がいた。


 だったら……やるしかない


 岳は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 そして、エンジンを切った。


 今日の目的はひとつ。


 監督を探すこと。


 クラブは会社になった。

 地域交流ウィークも動き出した。

 選手募集も始まる。


 だが――監督がいなければ、クラブはただの“夢の断片”だ。


 戦術も、練習も、選手の育成も、何ひとつ形にならない。


 3−4−3ムービングを理解してくれる人……

 そんな人、この街にいるのか?


 岳は名刺ケースを握りしめ、会社を出た。


 向かった先は――宇和島商業高校だった。


 昼下がりのグラウンドには、春の風が吹き抜けていた。

 芝の匂い、土の温度、遠くで響くボールの音。

 そのすべてが、岳の胸に懐かしい痛みを呼び起こす。


 監督は、練習を見守りながら岳に気づき、軽く手を挙げた。


「北島さん、また来たか」


「はい。今日は……監督候補の件で」


「監督候補?」


 監督は腕を組み、岳をじっと見た。


「クラブの監督を探してまして。

 3−4−3ムービングを理解してくれる人を……」


 監督は少し驚いたように眉を上げた。


「お前がやるんじゃないのか?」


「いやいやいや、無理です! 僕、サッカー未経験ですよ!」


 監督は笑った。

 だがその笑いは、岳をからかうものではなく、どこか温かかった。


「冗談だ。

 だが、3−4−3ムービングをやりたいんだろ?」


 岳は頷いた。


「……あの戦術には、夢があります。

 ただ勝つためじゃなくて、観る人をワクワクさせる。

 街の子どもたちが“あんなサッカーがしたい”って思える。

 そんなクラブにしたいんです」


 監督は、少しだけ目を細めた。


「……いい顔になったな、北島さん」


「え?」


「前に来たときより、ずっと“代表の顔”になってる」


 岳は照れくさく笑った。


「で、監督候補だが……」


 監督は少し考え、言った。


「……大畑悠斗って知ってるか?」


「大畑……?」


「うちのOBだ。

 若いが、戦術の勉強をずっと続けてる。

 県外のクラブでコーチをしていたが、今は宇和島に戻ってるはずだ」


 岳の胸が跳ねた。


「その人、会えますか?」


「連絡してみろ。悪い男じゃない」


 監督はスマホの連絡先を岳に渡した。


(……大畑悠斗。

 名前は聞いたことがある。

 でも、どんな人なんだろう)


 胸の奥に小さな期待が灯った。


 次に向かったのは吉田高校だった。

 ここでも、同じ名前が出た。


「監督候補? それなら大畑くんがいいんじゃないか」


「彼、頭がいいよ。

 選手時代から“動きながら考える”のが得意だった」


「戻ってきてるって聞いたよ」


(……また大畑さん?)


 偶然にしては出来すぎている。


 三間高校でも同じだった。


「大畑くんは、指導者として伸びると思うよ。

 ただ……ちょっとクセがある」


「クセ……?」


「妥協しないタイプだ。

 “本気じゃないクラブ”とは絶対に組まない」


 岳は息を呑んだ。


(……本気じゃないクラブ、か)


 自分は本気だ。

 だが、クラブはまだ何もない。

 監督から見れば“形だけ”に見えるかもしれない。


(それでも……会わなきゃいけない)


 岳は強く思った。


 夕暮れの帰り道。

 車の窓から見える旧三間中学校の校庭は、薄いオレンジ色に染まっていた。

 草刈りの跡がまだ残り、土の匂いが風に乗って漂ってくる。


 あの日、三崎陽斗と話した場所。

 あの青年の寂しげな目。

 そして、わずかに揺れた心。


(……あの子のためにも、

 この街の子どもたちのためにも、

 “本気のクラブ”を作らなきゃいけない)


 岳はハンドルを握りしめた。


「……会おう。

 逃げずに、ちゃんと話そう」


 その声は震えていたが、確かに前を向いていた。


 監督探し――

 クラブの未来を決める、大きな一歩が始まった。


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