第22話 ワンマン社長、誕生
木曜日の朝。
北島岳は総務課のデスクで書類を整理していた。
地域交流ウィークの準備、学校との調整、消防団との連絡、自治会の回覧板――
やることは山ほどある。
(……本当に、クラブってこんなに大変なんだな)
そんなことを考えていると、社内放送が鳴った。
『全社員は十時より大会議室に集合してください。社長より重要な発表があります』
総務課の空気が一瞬止まった。
「え、何だろう」「また新規事業?」「いや、まさか……」
社員たちがざわつく中、岳も資料を抱えて大会議室へ向かった。
大会議室には、すでに多くの社員が集まっていた。
ざわめきが広がる中、三好大悟社長がゆっくりと前に立った。
「よし、全員いるな」
社長の声が響くと、空気が一気に引き締まった。
「今日は大事な発表がある。
オレンジトレーディングの新しいグループ会社についてだ」
社員たちが息を呑む。
「このたび――
クラブ運営会社『宇和島オレンジエクストリーム株式会社』を分社化する」
どよめきが起きた。
「クラブ……会社にするのか?」「本気だ……」
社長は続けた。
「そして――」
視線が岳に向けられた。
「その社長は、北島たけしだ」
会議室が一瞬静まり返り、次の瞬間、爆発したようにざわめいた。
「えっ!?」「キタさん!?」「総務の!?」「マジで!?」
岳は立ち上がることもできず、ただ呆然とした。
「ちょ、ちょっと待ってください社長……!」
「待たん」
三好は笑った。
「たけし、お前がやるんだよ。
クラブを作るって言い出したのはお前だ。
地域を回って、学校と話して、消防団と交渉して……
誰よりも動いてるのはお前だ」
岳は言葉を失った。
「でも……俺、サッカーの経験もないし、経営なんて……」
「だからいいんだよ」
三好は胸を張った。
「サッカー経験ゼロの代表が、
サッカー経験ゼロの社長になる。
こんな面白い話はないだろ」
社員たちから笑いが漏れた。
「それに――」
三好は指を一本立てた。
「たけしは“社長だけど総務課員も兼任”だ」
「えっ!?」
「面白いだろ。
社長なのに、総務の棚卸しもやる。
社長なのに、備品発注もする。
社長なのに、社員はまだゼロだ」
会議室が笑いに包まれた。
「つまり――」
三好は満面の笑みを浮かべた。
「これがホントの“ワンマン社長”だ!」
社員たちがどっと笑った。
岳は頭を抱えた。
(……いや、笑いごとじゃないんだけど)
だが、三好は続けた。
「安心しろ、たけし。
俺も“エクストリームのアルバイト社員”として全力でサポートする」
「アルバイト社員……?」
「そうだ。
俺は社長業の片手間に、エクストリームの雑用もやる。
草刈りも、荷物運びも、SNS更新もだ」
社員たちがまた笑った。
「それから――」
三好は会議室を見渡した。
「社員全員、聞いてくれ。
たけしは今日から“社長”だが、
同時に“お前たちの仲間”でもある。
クラブは会社の夢でもある。
たけし一人に背負わせるな。
全員で支えろ。
全員で作れ。
全員で盛り上げろ」
その言葉に、会議室の空気が変わった。
笑いが消え、真剣な表情が広がる。
「たけし」
三好が岳を見た。
「お前は一人じゃない。
社員はみんな、お前の仲間だ。
それを忘れるな」
岳は胸が熱くなった。
立ち上がり、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。
俺、やります。
全力で。
この街のために。
クラブのために。
みんなのために」
会議室に拍手が広がった。
その音は、岳の胸に深く響いた。
(……本当に、始まったんだ)
宇和島オレンジエクストリーム。
その物語は、ここから“会社”として動き出す。
そして――
北島岳という“ワンマン社長”の挑戦もまた、
静かに、しかし確かに始まった。




