8 覆水盆に返らず
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
随分と長い時間、アリアドネは大きな窓の前に立ち、森を見つめていた。
―――夕日が落ちて、辺りは一気に暗くなっていく。
視線の先の森で今朝方、銀狼と鉢合わせした。アリアドネは驚いて倒れてしまったが、よくよく考えると銀狼は彼女を襲ってもいないし、威嚇もしていない。
(親切なライナス殿下の銀狼ですもの、人間を無闇に襲ったりするはずがないわ。ああ、どうして私はあんなに動揺してしまったの!?
あの時、倒れなければ、こんなに厄介なことにならなくて済んだのに!!)
視線の先にはドラクロア城の外塀も見えている。
森と城を隔てるその塀はパッと見ただけで分かるくらい頑丈なものだった。その上、高さもある。
また、常に塀の上と下に見張りの騎士たちが立っているのだ。
―――この状況を目の当たりにして、アリアドネは隙をついて城から逃げようなどという考えは捨てた。
(それにしても・・・、本当に取り返しのつかないことをしてしまったわ。どうして私はあんな嘘を口にしてしまったの!?)
取り返しのつかない嘘というのは、面識も無い祖父母の家門名を口走ったことである。
先ほど、ライナスがこの部屋にやって来て『君を実家に送るには、少し時間が掛かりそうだ』と、アリアドネに謝った。
彼はこの国の皇子なのに……、自ら謝りに来たのである。
(高貴なお方なのに、こんな私に対して申し訳なさそうなお顔をなさるから・・・)
アリアドネは動揺して、直ぐに返事が出来なかった。
(私はライナス殿下に失礼なことばかりしているわ。―――それに隣国のブリシア家が私のことをどう思っているのかも分からないのに、実家だなんて嘘を・・・)
もし、ライナスが先方に先触れを出していたら・・・と考えるだけで、アリアドネはゾッとしてしまう。
(皇族に嘘を吐いたという罪で殺されてしまうくらいなら、最初からライナス殿下へ真実を告げて助けて欲しいと相談してみたら良かったのだわ)
あの誠実な方なら、アリアドネの話を聞いて解決策を考えてくれたかもしれないのに・・・と、彼女は悔やむ。
(―――戻れるものなら、夜明け前に戻りたい・・・)
ただ、ライナスがアリアドネを一つも疑おうとしない点が、彼女は少し気になっていた。
(魔法測定を受けてないと勇気を出して告白したときもライナス殿下は『俺たちには計り知れない理由があるのかも知れない』と仰って、それ以上詮索されることもなかったわ。普通だったら、魔法測定を受けていないというだけで、牢に入れられてもおかしくはないのに・・・。どうして見逃して下さったのかしら)
アリアドネは腕を組んで考える。
(―――もしかして、ブリシア家がこの国の貴族ではないから? 他国の貴族だから、当たり障りのない対応をしているとか)
何となくこれが正解のような気がして、アリアドネはうんうんと頷く。
それならば、ブリシア家の人々がアリアドネに会いたいと言ってくれたら、最高の結末を迎えることが出来るのではないだろうか。
(だけど、そんなに簡単には行かないわよね~)
アリアドネは外がすっかり暗くなってしまったので、無意識に室内のカーテンを閉じて回る。
いつもクローシュ伯爵家(実家)でしているように・・・。
「あっ!!」
(そうだわ! 私からブリシア家の祖父母宛に手紙を出してみるのはどうかしら?―――ライナス殿下には実家の人々が心配しているかも知れないからと言えば、怪しまれないわよね?)
アリアドネはこの時、まだ知らなかったのである。城から出す手紙は全て検閲を受けるということを・・・。
(早速、メリルさんに便箋と封筒を用意して貰えないか聞いてみましょう!!)
アリアドネは張り切って、ドアの方へ向かった。
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