7 悪女ナディア
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「ねぇ、あんた今日あいつを見た?」
「ん~、見てないわ。また姫たちに折檻でも受けたのかしら・・・」
「姫たちは昨夜もかなり泥酔していたからね~」
「ねぇ、あんた今日あいつを見た?」
「ん~、見てないわ。また姫たちに折檻でも受けたのかしら・・・」
「姫たちは昨夜もかなり泥酔していたからね~」
お仕着せ姿の使用人たちは洗濯をしながら、コソコソと囁き合う。
『あいつ』はアリアドネで『姫たち』は双子の妹のことだ。
実は使用人たちが、アリアドネを見かけないという日は意外と多い。
その理由は継母か双子の妹に折檻を受けて、彼女がケガを負うことが多いからだ。
――――しかも、伯爵はアリアドネがいつ死んでも構わないというかの如く、彼女がケガをしても決して医者を呼ばない。
だから、アリアドネはいつも身体が回復するまで、屋根裏部屋から出て来ないのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――――昼過ぎに双子の片割れナディア(三女)が使用人を呼んだ。
いつもならアリアドネが対応してくれるのだが、姿が見当たらない。
仕方なく、代わりの使用人がナディアの元へ向かうことになった。
「お待たせしました、お嬢様」
ベッキーが部屋に入室すると、不機嫌そうなナディアが目に入る。
「(――――ああ、面倒なことになりませんように)」
彼女は心の中で祈った。
「ねぇ、なんで、あんたが来たの。あいつはどうしたのよ?」
「(いや、あなた方があいつを折檻したから部屋に引きこもっているのでしょう?――――だけど、この様子は・・・、違うってこと?)」
昨夜、ナディアはひどく泥酔した状態で夜会から帰ってきた。
「(もしかすると、あいつを折檻したのは夫人と姫(その一)だけだったのかな・・・)」
しかし、これはあくまで憶測でしかない。ベッキーはナディアに突っ込まれないよう、慎重に考えて答えなければと・・・。
ガッシャン!!
突然、花瓶が落下して割れた。
ナディアがチェストの上に飾られていた花瓶を扇子の先でトンと押したのである。
ベッキーはわけが分からず、呆然としてしまう。
「あ~ら、あなたが全然答えようとしないから、花瓶が割れちゃったわ~。もちろん、お給金で弁償してもらうわよ!」
ナディアはニヤリと醜悪な笑みを浮かべて、オホホホ~と芝居がかった笑い声を上げる。
ベッキーの心にグワッと嫌悪感が湧き上がってきたが、必死に抑え込んだ。これ以上、面倒なことに巻き込まれたくなかったからである。
「申し訳ございませんでした。直ぐに片付けます!」
彼女は花瓶の破片を拾うために屈む。
美しい白磁の花瓶はバラバラに砕け、飾ってあった大輪の花びらはボロボロ、茎も変な方向に折れ曲がって、無残な状態になっていた。
「(――――姫(その二)はどうしてこんなことをするの・・・)」
彼女は大きな欠片から順にハンカチへのせていく。
ガツッ。
「(痛っ!?)」
前触れもなくナディアがベッキーの手の甲を足で踏みつけた。
不幸中の幸いはナディアの靴がルームシューズで、手の下に花瓶の破片が無かったということ。
もしヒールの靴で踏みつけられていたら、手が使い物にならなくなっていただろう。
ベッキーは手の痛みと恐怖で息の仕方を一瞬、見失いそうになった。しかし、ここでパニックを起こせば相手の思うツボである。
「(落ち着け、落ち着くのよ、私。――――感情的になったらダメ!! 目の前にいるのは悪魔なのだから・・・)」
「ふん! 生意気なのよ!! ここを片付けたらあいつを連れて来なさい!!」
「――――は、はい、承知いたしました・・・」
ベッキーの震えた声を聞いて満足したのか、ナディアはテラスの扉を開けて、中庭へ出て行った。
♢♢♢♢♢♢♢
一時間後、屋敷内にアリアドネが居ないことが分かると、クローシュ伯爵家にはかつてない緊張が走った……。
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