6 ミアの提案
楽しい物語になるよう心がけています。
今回は少し長いですが、
どうぞ最後までお付き合いください!!
「申し訳ないが、君を実家に送るには少し時間が掛かりそうだ」
「えっ・・・」
「あ、いや、別に何かトラブルが起きたということではない。手配に少し時間が掛かるというだけで・・・」
「・・・・・・」
アリアドネはライナスの言葉を聞いて言葉を失う。ライナスはとっさに言い訳をしたが、彼女は悲し気な表情でうつむいてしまった。
室内の空気が重苦しくなっていく。
この時、壁際に控えていた護衛騎士モールドとカールは動揺していた。
――――アリアドネを気遣うライナスを見て『これは誰だ!?俺たちの殿下なのか?』と。
『ドラクロアの狼皇子』という二つ名をもつライナス。
彼は他にも『夢に出たサキュバスを串刺しにして炙った』『ワインの代わりに生娘の生き血を啜る』『食事の代わりに赤子を食らう』など、悪趣味な二つ名を多く持つ有名人で、帝国民から恐れられている。
しかしながら、護衛騎士たちの目から見たライナスは、常に帝国騎士団と行動を共にし、真面目に執務をこなす仕事人間だ。
そして、見目が良いだけに、とても痛い話なのだが・・・、ライナスに女性の影を感じたことは一度も無い。
―――そんな上司が美しい女性の前で狼狽えている。
これはライナスに『春が来た』ということなのだろうか・・・。それとも、彼女に何か秘密でも握られているのだろうかと、二人は同時に首を傾げる。
幸い上司はアリアドネに夢中で、護衛達のことなど目に入っていない。
いよいよこの場がどうしようもない雰囲気になって来たので、アリアドネの傍らに控えていた侍女ミアが口を開く。
「殿下、アリア様にお願い事をしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「内容によっては許可出来ないかも知れないが・・・、聞かせてくれ」
ミアはアリアドネの前に一歩進み出る。
「アリア様、私たちのお手伝いをしていただけませんか?」
アリアドネはお手伝いという言葉を聞いて、パッと顔を上げた。
「―――来月の感謝祭で帝国の孤児院にハンカチやエプロンを大量に寄付する予定なのですが、それに刺繍を入れる作業を手伝っていただけないでしょうか?」
ミアはアリアドネが暇を持て余さないように・・・と、お手伝いを提案してみたのである。
ライナスはミアに向かって大きく頷いて、了承の意を伝えた。
そして、ミアの提案にアリアドネはどう答えるのだろうと見守る。
「私で宜しければ、喜んでお手伝いいたします」
彼女は快諾した。ふんわりとした笑顔を浮かべて・・・。
「アリア様、刺繍のご経験はございますか?」
「はい、あります。花嫁衣裳へ刺繍を刺して欲しいと言われたら自信がありませんが、ハンカチやエプロン程度でしたら問題ありません」
ミアは頷きながらアリアドネの言葉を聞いていたのだが、花嫁衣裳云々という発言が出てきて、アリアドネはかなり刺繍が得意なのかもしれないと判断した。
「ところで、アリア様の魔法属性は何ですか?」
ミアはアリアドネの属性にあった糸を用意するために確認する。
自身の魔力属性と波長の合う刺繍糸を使って対象物に刺繍を刺せば、簡易的にではあるが、加護を付与することが出来るのだ。
世間ではこれを魔女刺繍と呼ぶ。
「私は、―――魔法測定(魔術洗礼式)を受けていないので自分の属性を知らないのです」
この件に関しては嘘を吐いても、すぐにバレてしまうと判断し、アリアドネは真実を述べた。
「「「「えっ~!?」」」」
アリアドネの告白で、その場に居た全員が声を上げる。
なぜなら、ドラクロア帝国も隣国のピートアイランド王国も貴族や平民に関らず、五歳を迎えたら、住んでいる地域の神殿で魔法測定を受けることが義務づけられているからだ。
仮にそれを怠った場合、親に重い罪が科されるというルールもある。
アリアドネの口からあり得ない話が飛び出してきて、ライナスはますます彼女の親に対する不信感が増した。
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