5 疑惑
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「―――悪いが、もう一度、言ってくれないか?」
ライナスは侍女頭メリルに聞き返す。
「な、何度でも言います! アリア様の背中にムチで打たれた痕があったのです。それも古いものから新しいものまで、沢山・・・」
メリルの声は怒りで震えている。目じりには涙が浮かんでいて、今にも決壊しそうだった。
―――彼女はアリアドネの入浴を手伝った際に気になったことがあると、ライナスへ報告しに来たのである。
「何故・・・」
「ライナス殿下、アリア様は森の中に逃げ込んだのではないでしょうか?」
「―――逃げ込んだ!?」
ライナスは驚いて目を見開く。
今の今まで、彼はアリアドネのことをただの迷子だと思っていたからである。
(まさか、彼女の背中にムチの傷があるなんて・・・)
ライナスは言葉を失った。
―――執務室はしんと静まり返る。
沈黙に耐え切れなくなったメリルは頭を下げてお詫びを口にする。
「すみません。出過ぎたことを申し上げました」
「いや、―――確かに逃げて来た可能性もあるだろう・・・」
ライナスは安易に『家へ送る』と、彼女に約束してしまったことを後悔してしまう。
もう少し彼女の話を聞くべきだった、と。
もし逃げて来たのなら『家に送る』は、一番してはいけないことだ。
最悪の場合、これまでより、もっとひどい折檻を受けるかもしれない・・・。
それに『犯人は親なのか? 他の者なのか?』ということも気になる。
「隣国のブリシア公爵家を調べよう。アリアを送り届けるのはその後だ!」
「はい、ありがとうございます」
メリルはやっと笑顔を見せた。
美しい娘に似つかわしくない酷い傷を目の当たりにし、絶対にライナスを説得して、アリアドネを保護しなければと彼女は気を張っていたのだ。
「メリル、教えてくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそお話を聞いて下さり、ありがとうございました」
一礼し、部屋を出て行くメリル。
彼女を見送ったあと、ライナスは同室で気配を殺して仕事をしている側近のアシュレイに視線を向けた。
「アッシュ、どう思う?」
「ご令嬢の背中にムチの痕とは・・・、本当に酷い話です。古い痕もあるなら、家族から折檻を受けていたのかも知れませんね」
「・・・・・」
「殿下、そんなに深刻そうな顔をしなくても・・・」
「いや、十分深刻な話だろ。お前、ちょっと隣国まで行って来てくれないか?」
「ええええっ~! 本気ですか!?」
アシュレイは左の脇机に積み上がっている書類の山をチラリと見て『嫌です!』という雰囲気を漂わせてみたのだが・・・。
「アシュレイ?」
「あ~、いえ・・・・」
ライナスの放つ冷気で、室内の温度が急速に下がったような気がした。
アシュレイは『あ、これ、もう絶対に断れないヤツ・・・』と諦める。
「隣国のブリシア公爵家を調査しろ! これは命令だ!」
「―――承知しました。早速、行ってまいります!!」
アシュレイは握っていたペンを机に置き、上着を羽織ると直ぐに執務室から出て行った。
「それにしても、あんなに美しい娘にムチを使うとは・・・、許せないな!」
イライラとしても仕方がないことだとは分かっている。
でも、侍女頭メリルが今にも泣き出しそうな顔で進言してきたということは、かなりひどい傷なのだろう。
(絶対に犯人を突き止めてやる!!)
先ずは、アリアドネに『実家に送る』という件は、少し待ってくれと伝えよう。今後のことは、アシュレイが戻ってからだ。
ライナスは執務室を後にし、彼女の元へ急いだ。
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