9 バーゼル公爵
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
夜が明けた。
今日からアリアドネは孤児院の子供たちへ渡すハンカチの刺繍を始める。
結局、糸はミアと同じものを使うことになった。
加護の付与は期待できないが、心を込めて一針一針、丁寧に刺繍をすれば、真心くらいは伝えられるのではないかと思っている。
一方、ライナスは隣国のブリシア家を探りに行ったアシュレイの帰りを待っていたのだが・・・。
「――――というわけで、至急捜査をして欲しいのです」
ライナスに急ぎの連絡があるといって現れたのは、バーゼル公爵だった。
彼の話によると、昨日の未明にクローシュ伯爵家の下働きの女が大金を持ち逃げしたのだという。
伯爵は憔悴し、双子の娘たちもショックを受けているらしい。だから、一刻も早く、犯人を捕まえて欲しいというものだった。
「なぜ、伯爵家の問題にあなたが関与する?」
「友人だからです」
バーゼル公爵はこの国でも有数の資産家で、他国にも顔が利く。
しかし、その一方で、ほの暗い噂の絶えない曲者でもある。
ここ最近だけでも鉱物の不法取引、違法カジノなどの不正にをしている貴族に近づき、捜査の手が及びそうになるとバッサリと関係を絶って、証拠を残さない。
しかも、その行いがライナスたちにバレているということも彼は自覚している。
なのに、堂々とライナスの前に現れて、お願いごとまでしてくるのだから、ふてぶてしいとしか言いようがない・・・。
「友人とは、どういう関係だ?」
相手(バーゼル公爵)は皇族の血縁に当たる公爵ではあるが、流石にライナスは二つ返事で請け負うつもりは無かった。
それにここで有力な情報の一つでも聞き出せれば、この男の背後を掴む糸口になるかも知れない・・・という思惑もある。
「友人は友人です。利害関係でも何でもありません。ただ、友人が困っているから、殿下にお願いをしに来たのです」
狸はやはり狸だった。簡単に口を割ろうとはしない。
「殿下、逆にお尋ねします。なぜ、協力して下さらないのでしょうか?」
「一貴族の屋敷で起きた窃盗事件をわざわざ私が解決する必要があるのか? 管轄の騎士団へ依頼すればいいだろう」
ライナスは冷たく言い放つ。
大金を持ち去られたのなら、堂々と被害届を出し、捜査を依頼すればいいだけだ。
「分かりました。殿下からお断りされたと友人に伝えておきます」
バーゼル公爵はニヤリと笑う。
彼は何を企んでいるのだろうか。ライナスは気味の悪さを感じた。
「まぁ、お断りされてしまいましたが、犯人の特徴を記したものくらいはお渡ししておきましょう」
そういうと、彼は一枚の紙きれをテーブルの上に置く。
ライナスは渋々書かれている内容に目を通してみた・・・。
細身。金髪の長い髪。色白。年齢は十代半ば。
ライナスの脳裏に犯人の特徴と当てはまる人物が浮かんでくる。
――――しかし、彼女は隣国のご令嬢のはず・・・。
「では、私はこれで・・・」
「ちょっと待て、犯人の名前は?」
「名前は偽名の可能性があるそうです。殿下、興味を持たれたのなら、私と一緒に今からクロ―シェ伯爵家へ行きませんか?」
バーゼル公爵の罠かも知れないという警戒心は勿論あった。だが、明らかにこの事件の犯人の特徴とアリアドネの容姿は・・・。
―――似ている。
ライナスはアリアドネがこの事件と関係あるのかどうか、知りたくなってしまった。
「分かった。同行しよう」
「はい、馬車の用意は出来ております。殿下、急ぎましょう」
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