35 マティルデ
楽しい物語になるよう心がけています。
どうぞ最後までお付き合いください!!
「マティルデ!」
「大きな声・・・。朝から何?」
屋敷に戻ったクロ―シェ伯爵は妻を叩き起こした。
今し方、ヴァルチャー金融組合でアリアドネを嫁に出すと決めて来たからだ。
「アリアドネをメイナール男爵家へ嫁がせることにした」
「あら、そうなのね」
マティルデはメイナール男爵家と聞いても驚かない。
事前にハロルド(ラース子爵)から教えてもらっていたからだ。
「―――ムチは没収だ。ほら、早く出せ!」
「急かさないで・・・」
「大事な娘に傷を付けられては困る」
「娘ね~、ウフフフッ、商品の間違いじゃなくて?」
彼女はベッドから身を起こしながら、夫をからかう。
「―――商品? お前は何ということを言うのだ!」
クロ―シェ伯爵は憤慨する。
マティルデはフゥ~と息を吐いて・・・。
「そうね、失言だったわ」
クロ―シェ伯爵がアリアドネのことを『大切な娘』と口にしたのは、今回が初めてである。
しかも、会ったことも無い男へ嫁がせるために出た言葉だ。ツッコミ処しかない。
だが、マティルデは何も言わず、彼に謝った。
―――『あともう少しの辛抱よ』と自分に言い聞かせて・・・。
♢♢♢♢♢♢♢♢
若かりし頃、マティルデはアーサー(現クロ―シェ伯爵)の穏やかな笑顔と優しい言葉に惹かれて恋に落ちた。
ところが、彼は隣国の公爵令嬢と結婚するといって、彼女を捨てる。
マティルデは悲しかった、悔しかった、捨てられる原因となった男爵令嬢という身分を呪った・・・。
その時に出会ったのがハロルド(ラース子爵)だ。
彼は夜会の席で、シャンパンを片手にマティルデへ話しかけて来た。
『マティルデ、私と組んで復讐をしませんか?』
『―――復讐?』
『ええ、私は一代限りの爵位では物足りないのです。率直に言えば、あなたの復讐相手の爵位が欲しい』
『そんな相手はいないわ』
『そうですか。では、あなたが復讐したいと思う相手が出来た時に、またお会いしましょう』
ハロルドはニコッと微笑むと、人ごみの中へ消えて行った。
『おかしな人ね・・・』
ところが、数か月後・・・。
『妻が死んだ。マティルデ、結婚しよう!』
目の前に現れた元恋人の無神経な発言にマティルデは言葉にならない屈辱を感じた。
―――爵位が低い娘はダメだと親に反対されて捨てたくせに・・・。妻が死んだから結婚しようですって?
だが、彼女は『バカにしないでよ!』という言葉を口には出さなかった。
シャンパングラスを差し出すハロルドの姿が思い浮かんだからである。
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