33 クロ―シェ伯爵の思惑 上
ここからは一昨日、アリアドネが家を出た後のクロ―シェ家のお話です。
どうぞお楽しみくださいませ!!
早朝、クロ―シェ伯爵家の裏口から赤ずきんを被った女が出て行った。誰にも気づかれることなく。
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クロ―シェ伯爵はこの日、とある金融組合から呼び出しを受け、午前八時に屋敷を出発した。
後妻のマティルデはまだベッドの中にいる。彼女は朝が苦手なのだ。
また双子の娘たちは昨夜、夜会が盛り上がったといって真夜中に帰って来た。年若い娘を遅くまで帰さない仲間などロクな奴らではないだろう。
―――そろそろ注意すべきか・・・。
「ハァ~~~~」
彼は車窓を眺めながら、深いため息を吐く。
間違いなく、この呼び出しは支払いの催促だ。
クロ―シェ伯爵領はこの十数年、幾度も凶作に見舞われ、経済状況が非常に厳しい。それに加えて、妻と娘たちの散財・・・。
マティルデは事あるごとに昔、一度捨てられたという恨み言をクロ―シェ伯爵に吐き、それを免罪符にして自分の好きなように生きている。ただ、悲しませてしまったのは事実なので、こればかりは仕方がない。
「それもこれも・・・」
親の決めた妻、パシャは子を産んで、あっけなく死んだ。
前妻のパシャは土属性の魔力を持っていたのだという。
父(前クロ―シェ伯爵)は『彼女を娶れば大地が潤う』と大喜びで彼女を隣国から連れて来て、息子(クロ―シェ伯爵)と結婚させた。
だが、パシャはすぐに死んだため、土属性の恩恵など何も感じていない。そして、パシャの後を追うように父(前クローシュ伯爵)も病で天に召された。
本当に無駄な結婚だったとしか言えない。それにパシャの残したあの娘・・・。
「何の役にも立たない娘だ。結局のところ、あの子の魔力属性は何だったんだ? こんなことなら・・・」
アリアドネが産まれた時、クロ―シェ伯爵は彼女の魔力測定をスルーした。その理由はアリアドネがパシャと同じ土属性を持っていたら・・・と警戒したからである。
この国は岩場ばかりで、農地に適した土地が少ない。そのため、土壌の改良を得意とする土属性魔法の使い手はとても人気がある。
土属性をもつ女の子が産まれた家門は、婚約者に迎えたいという打診を方々から受けることになるはずだ。その際、伯爵家よりも格上の貴族から声が掛かってしまえば、こちら側から断る事も出来ない。
―――アリアドネを他家に取られ、クロ―シェ伯爵領の実りが悪くなっては困る。
結局、クロ―シェ伯爵はマティルデを説得し、アリアドネを屋敷に置いておくことにした。
彼女が逃げてしまわないよう『隣国の祖父母のことを決して口にしてはならぬ』と使用人たちに念書まで書かせて・・・。
ところが彼の目論見は見事に外れ、伯爵領の作物が豊かに実る日は訪れなかった。
「仕方がない。あの子には他の方法で役に立ってもらおう」
――――クロ―シェ伯爵を乗せた馬車はラース子爵の経営するヴァルチャー金融組合の車止めに停車した。
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