第四話 いつもの執務室
ルイーゼの初出勤から1週間。
仕事も随分慣れたようで、バリバリ働いてくれている。働いてくれているのはいいんだけど・・・。
(一応、王太子と働いてるんだから、もう少し意識してくれてもよくない?)
エリオットは机に頬杖をつきながら、軽くため息をはいた。
「殿下、休憩してる場合ではないです。次の会議までにこの書類の山を確認していただかないと」
そう言いながら、ルイーゼが書類の山を運んでくる。
「はいはい。わかってるわよー」
「よろしくお願いしますね」
もうすっかりどっちが上司かわからない。
それにオネェ言葉もこの執務室ではすっかり板についてしまっていた。
(やれやれ、しょうがない。仕事しますかねー)
その日の午後、会議が思ったより長引き、昼休憩もとれずにエリオットは執務室へ戻った。
「ちょっとどうしたの?あなたたち」
「ああ、殿下。おかえりなさいませ」
なんだか疲れた様子のルイーゼが振り返る。
その隣の机で、セドリックも何やらどんよりした雰囲気をまとっていた。げんなりした様子で、セドリックが答えた。
「殿下、財務部で少々ミスが起こりまして、連鎖的にこちらまで後処理がまわってきまして」
「あらあら、まあまあ。大変だったのね、お疲れ様」
ふいに、ぐぅぅぅっと音が鳴った。
ルイーゼが真っ赤になりつつ、下を向いている。
「すみません。お昼がまだだったもので」
「あら、私もまだなのよ。もうお腹ペッコペコよ」
ふふっと、エリオットは笑って見せた。
「よしっ!あなたたち、ちょっと待ってなさい」
腕まくりしながら、エリオットは部屋を出ていった。
しばらくすると、いい匂いと共に殿下がもどってきた。ルイーゼは思わず鼻をクンクンとさせた。
「特製サンドイッチとスープよ。あと残り物だけど、クッキーもあるわ。これなら空きっ腹にはちょうどいいでしょ」
ほほう、とセドリック様と私は目を輝かせた。
「「いただきます!」」
2人でほぼ同時に言い、サンドイッチを頬張る。
「おっおいしい!」
「久しぶりに食べますが、やはり殿下のお手製は美味しゅうございますねぇ。疲れた体に染みます」
いつもは鉄面皮なセドリック様が、うっとりしながら、サンドイッチを頬張っている。
ルイーゼは驚いて、思わず聞いてしまった。
「でっ殿下がお作りになられたのですか?!」
「そうよ。私専用の厨房があってね。たまに作るの。今度時間があったら、お菓子も作ってあげるわねー」
そう言いながら、サンドイッチを食べる仕草は王子様そのもので、とっても優雅だった。
「おっお菓子ですか?まさか、このお店のもののようなすっごく美味しいクッキーも?」
「そうよ。私の手作りよ。あとはアップルパイでしょ、マフィンでしょ、たまにケーキも作るわよ」
ルイーゼは思わず目をランランと輝かせた。その様子を見たエリオットは、少し苦笑しつつ、ルイーゼに聞いた。
「あなた、甘いもの好きなの??」
「はい。お恥ずかしながら、甘いものには目がありません」
「ふふ。じゃあ、これからたくさん作ってあげるわね」
そう言ってにっこり微笑んだ殿下の顔は、とってもまぶしかった。
ひと段落したあと、ルイーゼたちはそれぞれの持ち場に戻った。
(殿下が料理をなさるとは、意外でした。しかも部下のために、わざわざ作ってくださるなんて。とんだホワイト部署に来たのでは?以前の部署は忙しすぎて、携帯食みたいなのをかじって、よくシェリーに怒られていたっけ。)
そんなことを考えながら、ルイーゼはふと書類から顔をあげた。
隣の席では、セドリック様が物凄いスピードで書類を仕分けていく。
(相変わらずすごいスピードですねぇ。私も見習わねば。)
仕事を進めつつ、ルイーゼはこんなことを考えていた。
(セドリック様は、短い黒髪をオールバックにきれいに整えていて、服装もいつもお手本のようにしっかり着ていらっしゃいます。一見近寄りがたい雰囲気ですが、端正なお顔立ちに紺色の瞳が映え、おモテになりそうです。)
一方、殿下は片手で決裁の判を押し、反対の手で羽ペンを持ちながら修正箇所を入れていく。
(オネェ言葉に騙されがちですが、殿下も執務能力がすごく高い方です。容姿は言わずもがなですが、輝く金の髪に長いまつ毛を瞬かせ、エメラルドグリーンの瞳で書類を見ている。相変わらず眩しいお方です。もしここに年頃のご令嬢でもいたら卒倒しそうです。)
そんなことを考えながら、ルイーゼは今日も大量に持ち込まれる書類をさばいていくのだった。




