第三話 初出勤
ルイーズは、真新しい制服をしっかり着こんだ。
いつも髪を整えてくれるメイドのシェリーにお礼を言う。
「ありがとう。いつも綺麗に整えてくれて。」
「そう言っていただけると頑張った甲斐があります。お嬢様は整えて差し上げないと、気にせずお仕事なさいますから」
「えへへ。ごめん、ごめん。じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」
王太子の執務室で、エリオットは今日の書類を確認していた。
コンコンとこ気味いいノックの音が聞こえる。エリオットは入室の許可を出した。
「おはよう、グリーン嬢。今日からよろしく」
「はい!本日よりよろしくお願いいたします」
「改めて紹介しよう。セドリック・ブルーエ。私付きの補佐官だ。仕事については彼から教わってくれ」
「はい。よろしくお願いします。ブルーエ様」
紹介された補佐官は、恭しく礼をして言った。
「かしこまりました、殿下。グリーン嬢、セドリックでようございますよ。これから一緒にお仕事をさせていただきますので」
「はい、ではセドリック様とお呼びさせていただきます。私のこともルイーゼとお呼びください」
「かしこまりました。ルイーゼ様」
エリオットは頬杖をつきつつ、その様子を羨ましげな顔をしながら眺めていた。
それに気づいたセドリックは、ルイーゼに問うた。
「あの、ルイーゼ様。殿下もそのようにお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんが?」
それを聞いて、エリオットの顔が輝いた。
「じゃあ、私もルイーゼって呼ばせてもらうね」
「はい。よろしくお願いいたします」
「ではルイーゼ様、こちらへ。お仕事の内容をご説明いたします」
一通り説明が終わり、ルイーゼは自分の席で書類を見始めた。セドリックやエリオットも各々の仕事を始めている。
すると、ルイーゼは何かに気づいて、書類をペラペラめくり始めた。
「セドリック様、お仕事中失礼いたします。ここの殿下のスケジュールなのですが、このままではダブルブッキングしてしまうかと」
「どういうことです?」
「この会議が行われる場所と次の視察場所はかなり離れており、移動時間と会議の終了時刻を考えますと間に合わないかと。あとこの時間帯、かなり馬車道が混みますので、余計に時間がかかると思われます。」
「本当ですね。ありがとうございます。すぐに調整して参ります」
慌てて執務室を出ていくセドリック。
ルイーズはほおっと息をはいた。
(よかった。間違っていなかったみたいです。)
その様子をエリオットは、静かに書類を捌きながら見ていた。
戻ってきたセドリックは、調整した新たなスケジュールをエリオットに確認してもらうと再び執務室を後にしていった。
ルイーゼは再び任された書類を確認していく。部屋ではカリカリと羽ペンで書く音と、ペラペラと書類をめくる音だけが響く。
ルイーゼは再び書類をめくる手を止めた。そして他の書類と見比べ始めた。
エリオットはその様子をしばらく眺めていたが、席を立ってルイーゼに声をかけた。
「ルイーゼ?どうかしたかい?」
ルイーゼは集中しているせいか、聞こえていない様子だった。エリオットはそっと肩に手を触れて、再び話しかけた。
「ルイーゼ?」
「はっ!もっ申し訳ありません、殿下。」
「手が止まっていたようだったから、どうかしたかい?」
「あっ、それなんですが…」
「いいよ、言ってごらん」
「ここの参照されている数字が違うようで、おそらく昨年の数字になってしまっているようです」
ルイーゼの指摘を聞いて、エリオットも書類を見比べてみる。すると、ルイーゼの指摘の通りになっていた。
「よく気づいたね。こんな端っこの数字、セドリックでも見逃してるかも。」
「あっ、私一度見たものは記憶できるものでして。」
「…そうなの!?それはすごい能力だわ!っと、つい口調が。」
「殿下がお話しやすいようでしたら、そのままでもよいと思いますが」
「あら、そう?」
「はい」
「ありがとう」
エリオットは、そうお礼を言って微笑んだ。
「じゃあ、これはあとでセドリックに確認してもらうから、続きやっといてもらえる?」
「かしこまりました」
その後は順調に仕事を進め、その日の作業は終了した。
ルイーゼは挨拶をして帰っていった。
その後、エリオットはセドリックに質問した。
「セドリック、ルイーゼの働きぶりはどうだった?」
ふむと少し考えたあと、セドリックは恍惚とした表情で捲し立てるように答えた。
「ルイーゼ様は…、たいっへん素晴らしいですっ!あのスケジュールのミスに気づき、あの複雑な統計資料のミスまで!初日でまさかここまでできるとは!」
「セッ、セドリック??」
いつも冷静沈着であまり他人を褒めることがないこの男が、ここまで褒めるとは珍しい、とエリオットは驚いていた。
「ごほんっ、失礼いたしました。とにかく素晴らしい人材です。殿下が学園をご卒業されて2年。ご公務を任されることも多くなり、私でもかなり手一杯の状態でしたので。ルイーゼ様のような方は、喉から手が出るほど欲しい人材かと。」
「そうか。そうだな。」
エリオットは、可憐な見た目とは打って変わって、真面目に仕事に打ち込むルイーゼのことを思い出しつつ、これからの毎日が楽しみになっていく予感がしていた。




