第二話 王太子の秘密
第二話 王太子の秘密
時は遡り、ルイーゼが挨拶をしに来る少し前のこと。
ふんふんふーん、と鼻歌を歌いながら、今日の訪問者を待っているエリオット。
「何時頃に来るんだったかしら?」
「あと30分ほどかと」
「そう」
「殿下、それ本日何回目の質問でございますか?」
キッとエリオットが振り返りながら、補佐官であるセドリックをにらむ。いつもは冷静沈着なのに、時々鋭いツッコミをいれるのが腹立たしい。
かたやセドリックは何事もなかったかのように、しれっと業務に戻っていた。
そのきっかり30分後のこと。
コンコンとノックの音が聞こえた。
少し緊張しつつ、なるべく平静を装って「どうぞ」と返事をする。
「失礼します」と入ってきた彼女は、とても可憐で可愛らしかった。1年前の卒業パーティーの時より少し大人びたように見える。
三つ編みにした栗色の髪をサイドに流し、真新しい制服を身に纏っていた。少し緊張した面持ちながら、その深緑の瞳はまっすぐ自分を見ている。
(もうっ、心臓がうるさいわ、静まりなさいよ。)
なるべく落ち着いた声で、エリオットは歓迎の言葉を伝えた。
すると彼女はしっかり前を見据え、挨拶を返してきた。
「本日より王太子殿下付きの秘書官として、お世話になります。ルイーゼ・グリーンです。よろしくお願いいたします。」
一瞬時が止まるエリオット。
「……えっ? 秘書官? 私付きの?」
思わず声がうわずってしまい、素が出そうになるのを慌てて引っ込める。
「はい!」と笑顔で元気よく返事するルイーゼを横目に、エリオットは頭が真っ白になった。
「…………じゃない。」
「でっ、殿下?何かお気に障ることでも…」
「そっ、そっ、そっちの隣じゃないのよぉーっ!」
執務室にオネェ言葉が響き渡り、エリオットははっと我に返った。その瞬間、ルイーゼとバチッと目が合った。
(しっしまったー!)
エリオットは内心で叫んだ。
(思わず素で叫んじゃったじゃない。もうダメだわ、こんな完璧王子の中身がオネエなんて、絶対引かれたわ。)
ルイーゼに今のをバッチリ聞いたかどうか確認すると、きょとんとしながらもしっかり聞いたと返答される。
拳をふるふる震わせながら、もうダメだとばかりにエリオットは嘆いた。
「あーん、もう!カッコよく決めたかったのにー!」
「殿下、そんなこと言ってる場合ですか?」
「もうお先真っ暗よっ!」
そんなふうにセドリックと言い合っていると、ルイーゼがぽつりと質問した。
「あっ、あのー、殿下の恋愛対象はどちらなのでしょうか?」
「??」
エリオットは思わずルイーゼの方へ振り返る。ルイーゼはこちらの動揺などを気にせず、続けた。
「いえ、今後殿下のご婚約者様を見つけるにあたって、重要事項だと思いまして。」
「オネェなのに引かないの??」
「まあ、世の中いろんな方がいらっしゃいますし、お仕事に差し支えなければ気になりませんが。」
「……」
「で、どちらなのでしょうか?」
「何が??」
「恋愛対象です」
「好きになるのに男も女もないわよ」
「かしこまりました」
とルイーゼは真剣になにやら手帳にメモする。
「メモらなくてよろしいっ!今日は挨拶だけだから、明日からよろしく頼むわね。あと、私がオネェだってことは内緒でお願い。」
「はい!秘密はお守りしますので、ご安心ください」
これから仕える上司の最大の秘密を知ったのに、なぜか笑顔で帰ろうとするルイーゼ。
エリオットは、そんな彼女の誕生日が今日だったのを思い出し、お祝いを告げた。
ルイーゼはにっこり笑って嬉しそうにお礼を言って帰って行った。
ルイーゼが執務室から出たあと、ため息をつきつつ、エリオットはセドリックにボヤいた。
「おかしいわね、婚約者候補のつもりで呼んだんだけど??どういうこと??」
「変わった方に目をつけられましたね、殿下」
「オネエにひかないってどういうことよ。格好よく挨拶するつもりだったのに」
「……っ、ふふ」
「ちょっと、セドリック?今、笑ったわね?」
「いえ、笑っておりません。……くっ、ふふふっ」
「やっぱり笑ってるじゃないの!」
「途中までは格好良かったんですがねぇ、……ふふっ」
「笑うんじゃないわよ、従者だったら慰めなさいよ」
「申し訳ございません」
「まったくもう!はああ、それにしても明日からどうしようかしら」
「そのままでよろしいのでは?」
はあああっと大きなため息をついて、麗しの王子の悩ましい夜は更けていくのであった。
第二話は、エリオットから見たお話です。平静を装ってましたが、内心は大変だったようです。




