第一話 最悪な誕生日
18歳の誕生日は、私ルイーゼ・グリーンにとって人生最悪な日だった。
結婚を申し込まれる女性が多い卒業パーティで、婚約破棄をされたのだから。
この国の貴族は、貴族学校で学ぶことが主流だ。
グリーン伯爵家の三女である私も、王宮文官を目指して日夜勉学に励んでいた。
三年生になってすぐの頃、同じ家格だが名家のセピア伯爵家のマーク様との縁談が決まった。縁談が決まったあとも、勉学に励み続け(マーク様には苦い顔をされたが)、ついに首席で卒業することができた。
そして折しも18歳の誕生日、婚約者のマーク様とともに王宮で開かれる卒業パーティーに出席した。無事に首席の挨拶という大役を果たした私だったのだが・・・。
この状況はどうだろう。婚約者であるマーク様からなぜか罵倒されている。
(これは現実??それより、隣にいる彼女はどなた??)
「お前は、彼女に嫉妬して、嫌がらせを行っていたそうだな。さらに、一週間前に彼女を学園の階段から突き飛ばした。お前みたいな悪女との婚約は破棄する!」とマーク様が高らかに宣言した。
(なにを言ってるんでしょうか、この方は?彼女は誰だったっけ?今日初めて会った気がする・・・たぶん。それに1週間前には確実なアリバイがありますが、言うことはできないですし。さて、どう切り抜けましょうか。)と、私の頭の中はフル回転していた。
「ふん、図星すぎて言葉もでないか」
「いえ、違います。その日私は学園にはいませんでした。記録を確認していただければわかります。そもそも彼女はどちら様でしょうか。初めてお会いすると思うのですが?」
私がそう言うと、隣の彼女は真っ赤になって、
「カバー男爵家のマーラよっ!!」と叫んだ。
「ああ!平民から男爵家のご息女になられたという。初めまして」と、すっとぼけて言ってみる。
ますます赤くなる彼女をなぜか庇う我が婚約者殿。
「なぜマーラにいじわるばかり言うんだ。大体記録なんていつでも改ざんできる。それに家にいなかったことも確認済みだ。学園にいないなら、一体どこに行っていたんだ?さあ、とっとと罪を認めたらどうだ!」
(ええっめんどくさっ。まあ婚約者をほったらかして勉強ばかりしていた私も悪いですが、浮気する方もどうかと思いますけど。どうしましょうか。どこに行ってたかは機密事項ですしねぇ。)
悩みに悩んでいたら、コツコツと後ろから革靴の音が聞こえてくる。
それとなぜか黄色い声も。
「その日彼女は私と一緒だったよ。もちろん、仕事でね」
とウインクしてみせたのは、なんと王太子のエリオット様だった。
輝く金髪をなびかせて、キラキラのオーラをまといながら、あのエメラルドグリーンの瞳で見られたら、大抵の女性はイチコロだろう。
(まっ眩しい・・・。)
「彼女には極秘の会議に参加してもらったんだ。学園を首席で卒業した彼女には色々意見を聞きたくてね。国の事業に関わることだから、守秘義務があって言うわけにはいかなかったんだよ」
涼しい顔でおっしゃってますが、目の奥が笑ってないです、エリオット殿下。背中からブリザードも出てる気がします。
さすがのマーク様も王太子殿下には、たじろいでいる。
「なっ!では他のものにやらせたんだろう!」となぜか息巻くマーク様。
(何考えてるんですか、あの方は!国のトップである王太子殿下に反論するなんて。馬鹿なんですか。あっ・・・何も考えてないですね、こいつ。)
ふーっと、長めに息を吐いて気合いを入れる。マーク様に向き直った私は、最後通告を告げる。
「もう結構です。婚約破棄の件、しかと承りました。ですが、彼女に嫌がらせしたのも、階段から突き落としたのも私ではありません」
「なんだと!」
「私がいつどこで何をしていたか、毎日日記をつけていますので、そちらでわかるでしょう。必要であれば裏を取っていただいて結構です。それにこれはれっきとした傷害罪です。しかるべき機関を入れて捜査したうえで、裁判を行うべきです」
「……。ちっ。このままじゃ済まさないからな」
マーク様は捨てゼリフを吐きながら、去っていかれました。あと彼女のマーラ様も。
ふーっと息を整えた私は、殿下に向き直り謝罪した。
「王太子殿下、今日の善き日にご迷惑をおかけし、申し訳ございません」
それを聞いた殿下は、少し目を丸くしたあと、ふふっはははっと笑い出した。
(何が面白かったんでしょうか。えっ?どこ?)
「ああ。すまない。助け船を出したつもりだったんだが、逆効果だったかな」
「いえ。渡りに船でございました…よ?」
(何でまだ笑ってるんです??)
「ふふっ。そうか。なら、よかった。ところで、婚約は破棄するようだが、今後の当てはあるのかい?」
「いえ。うちは伯爵とはいえ新参ですし、もう旬をすぎる年です。こんな醜聞のある娘を欲しいという家はないでしょう」
「旬ねぇ……」と考え込む殿下。
「それなら、君さえよければなんだけど、私の隣に来ないかい?」といたずらっぽい笑みで殿下が微笑んできた。
「あなたの隣ですか??」
「そう。私の隣」と自分の横を指差す殿下。
ふむ…としばし私は考えたのち、殿下の目をまっすぐ見つめてこう答えた。
「大変光栄なお言葉ではございますが、私は私の力であなたの隣まで昇りつめたいと思います」
私の言葉を聞いた瞬間、殿下は先ほどより大きく目を見開いた。
それから腕を組み、顎に手を当てつつ何か考え込み始めた殿下。
(不敬だったでしょうか?でもコネで行くより私は自分の力で行きたいです!)
「ふっ、そうか。わかった。では首を長くして待つとするかな」
そう言うと、殿下は再び微笑んだ。
「あっ、そうだ。申し訳ないより、ありがとうの方が助け船を出した方としては嬉しいかな」
殿下は私の頭をぽんとなでて、去って行った。
私は一瞬何が起きたかわからなくて、ぼーっとしていた。
慌てて我に返った私は、「ありがとうございました!」と感謝を申し上げた。
すると殿下は後ろ手に手を振りながら、会場を後にしていった。
その後の会場内では、女性たちの気絶が相次いだので、早々にお開きとなったのでありました。
後日、私は裁判をすることもなく、婚約破棄は無事成立した。
(どうやらどこかのやんごとなきお方が裏で動いてくれたらしい。)
おかげで晴れて私は王宮の文官となった。
そこからは怒涛の日々だった。昼夜問わず仕事に明け暮れ、少しずつ出世していった。
大変だったけど、好きでもない婚約者の機嫌をとるよりずっと楽しかった。
そして、あの地獄の誕生日からちょうど一年たったこの日。私は王太子殿下の執務室の前にいた。
殿下の側近であるセドリック様に促される。
「ではこれから王太子殿下にご挨拶いたします。準備はよろしいですか」
「はい。大丈夫です」
コンコンとセドリック様がノックすると、「どうぞ」と低いが優しげな声がした。
「1年ぶりかな。ようこそ私の執務室へ、グリーン伯爵令嬢」
ニッコリ微笑む王太子殿下は、1年ぶりにとても眩しかった。
「本日より王太子殿下付きの秘書官として、お世話になります。ルイーゼ・グリーンです。よろしくお願いいたします」
一瞬動きが止まる殿下。
「……えっ? 秘書官?? 私付きの??」
「はい。そう辞令が届きましたし、お約束の通り、自力で殿下のお隣まで昇って参りました」
私はにっこり微笑んでみせた。
「……じゃない」
「でっ殿下??何かお気に障ることでも…」
「そっ、そっ、そっちの隣じゃないのよぉーっ!」
「ふえ??」小首をかしげる私。
はっとして、私に向き直る殿下とバチっと目が合った。
「えっ、ええっと。今の聞いた?わよね?」
「はい。それはもうバッチリと」
ふるふる震え出す殿下。
「あーん、もう!カッコよく決めたかったのにー!」
「殿下、そんなこと言ってる場合ですか?」とセドリック様が殿下をなだめている。
(???何が起きてるんでしょうか??まあいっか、これからバリバリ働きますよー!)
某年某月某日 晴れ
人生で最悪の誕生日から一年後の今日。
私は王太子殿下の隣まで昇りつめた。
……殿下付きの秘書官として。
あと、上司である殿下はオネェでした。
(隠していたみたいですが)
追記
セドリック様と揉めていた殿下だったが、
「忘れるとこだったわ!ルイーゼ嬢、お誕生日おめでとう!」と満面の笑みで祝いの言葉をくれた。
「ありがとうございます!」
私は満面の笑みで答えた。
最近、小説を書き始めたばかりなので、読みにくい部分があるかもしれませんが、よろしくお願いします。
※10月24日一部セリフの語尾や言い回しなど、修正しています。




