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失恋皇女は冠を掴む  作者: はるてん
エピソード0
49/50

カシアン 7歳

 それは、全くの偶然だった。


 カシアン・アセンダントは元々石遊びが好きな子供だった。領地の山で石を拾い集めるのが趣味だった。ただの黒い石を集める子供を、両親も兄も嫌悪した。祖父だけが、彼を溺愛していた。


 その日、彼はなんとなく石を窓辺に並べた。理由はなかった。

 夜、並べっぱなしだった石を仕舞おうとした時。一つ。落とした。


 床に落ちた瞬間。光った。


 少年カシアンは目を丸くした。足元で光るそれを拾おうとして、石が胸元からいくつか手からこぼれ落ちる。


 床に落ちた瞬間。また光る。光らないものもあった。

 それは七歳の少年を一気に虜にさせた。


 そしてカシアンは研究を始める。

 どの石が光るのか、光る条件はなんなのか、それがどこでとれたものなのか。彼は夢中になって調べ、その鉱脈を次々と発見する。




「おじいさま! 見てください!!」


 領地の地図を持って、カシアンは難しい顔をする大人たちの中に飛び込んだ。大人たちは一瞬顔をしかめたが、当主の「休憩にしよう」という言葉で態度を軟化させる。

 可愛がっている孫を膝に乗せてアセンダント伯爵は地図を興味深げに覗き込んだ。


 その日は、緊急で開かれた親族の集まりだった。アセンダント伯爵家は研究職についている者が多い。現当主であるアセンダント伯爵も、元は兵器開発で功績を上げた元研究者だった。


 部屋の隅から、カシアンの父が忌々しげに見ている。


「カシアン、なんだいこれは?」

「光る石のとれる場所です!」

「? 光る石?」


 カシアンはズボンのポケットにしまっていた木の実程の小さな石を二つ取りだす。そしてそれを、強く叩き合わせた。


 カッと、白い光がカシアンの手からあふれる。

 周りの大人達はその光景に目を見開いた。


「これです! この石、叩くと光るんです!」


 無邪気に笑う子供に、獣のような眼をした大人達が群がる。


「これはどういうことだ?」

「ただの石に見えたぞ」

「衝撃エネルギーが光エネルギー変わったのか」

「カシアン、それを見せてくれ!」


 目をギラつかせて集まる大人にカシアンは体を縮こまらせた。



「わめくな!」


 当主の言葉に前のめりになっていた大人たちは居住まいを正した。当主は孫に優しく問いかける。


「カシアン、この石は拾ったのか?」

「……はい。裏の山で採ってきた石です。隣の山からも採れています」

「たくさん、あるのか」

「はい! たくさん見つけました」


 少年はもう一度地図を広げる。

 先程は見向きもしなかったが大人たちが、こぞって覗き込んだ。そして、印の多さに顔を輝かせる。


「でも、採ってきただけじゃ光らないんです! 石を」


 嗄れた手がカシアンの小さな口を塞いだ。


「カシアン、それは後でゆっくり聞かせておくれ。すごい発見をしたな」


 祖父に褒められてカシアンは満面の笑みで笑う。それをにこやかに確認してから、当主は大人達に向き直った。


「鉱石に強い者を中心にチームを作れ。それ以外の者も、現在進めている研究を一度まとめておけ。これは革命が起きる。連なる者は総出でかかるぞ」


 歴史を変える大発見の予感に、大人達は震えていた。誰もが真剣な顔をして当主の言葉に頷く。カシアンの父親を除いて。


「当主殿、派閥の件はどうしますか」

「……返答を引き延ばしておけ。研究の出来次第で我が家の動き方は変わる。うまく行けば、我が家が振興派の陣頭に立てるかもしれん」


 当主の言葉に皆が頷く。


「皆、これはアセンダント家の勝負所だ。全力で取り組め」


 沸き立つ大人達を、カシアンは祖父の膝の上から眺めていた。

 石に夢中な彼はなにも知らなかった。遠くの城で皇族が次々死んで国が大変な騒ぎになっていることも、小さな女の子が一人泣いていることも、なにもなにも知らなかった。

アセンダント鋼との出会いが彼の全てを変えました。


次は執着男の番です。

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