リリアナ 8歳
少女は男兄弟の家族に生まれた待望の女の子として、溺愛されて育った。
蝶よ花よと愛でられて生きてきた彼女は、自分の愛くるしい顔を早くから自覚する。
「オースウェル侯爵家のご挨拶です」
新年を迎えた謁見室で、オースウェル一家は優雅に頭を下げた。
兄たちに囲まれながら、リリアナも家で完璧に練習してきた淑女の挨拶をする。
大人たちが難しい言葉を交わす中、彼女はちらりと玉座を盗み見た。
黒髪の皇太子と赤毛の皇太子妃の横に、小さな女の子の姿がある。
白いドレスにふわふわの赤毛をおろした彼女は、退屈な話の間も大人しく豪華な椅子に座っていた。
――あれがお姫様なの? リリアナのほうが、かわいいわ。
周りに気づかれないよう、少女は小さく舌を出した。
謁見の後は退屈なパーティーだった。
子供部屋に連れてこられたリリアナは、兄たちと共に動く。部屋の反対側から同じ年頃の少女たちが嫌な目でこちらを見ていることに彼女は気づいていた。
「みんなとおしゃべりしてこないのかい?」
兄弟の言葉に、リリアナはふんと鼻を鳴らす。少女たちにわざと聞こえるような大きな声で答えた。
「あんな子たち、侯爵家のリリアナとはつり合わないわ!」
「リリアナ、そんなこと言ってはだめだ」
即座に兄が注意するがリリアナはそれに答えなかった。聞く耳を持たない様子の妹に、一番上の兄が膝を折って諭し始める。
「リリアナ。私たちは騎士の一族だ。騎士は部下をたくさん率いなければいけない。仲の良いお友達をたくさん作るのは、騎士への最初の一歩だよ?」
「どうせリリアナは女だから、騎士にはなれませんもの!」
リリアナはそう叫んで部屋を飛び出した。兄に背中を押されて、一番下の兄が慌てて後を追う。
廊下をがむしゃらに走った結果、兄を撒くことには成功したが、リリアナは迷子になった。
――どうしよう。絶対に怒られるわ。
どうやって元いた部屋に戻ればいいか、頭を悩ませていた時。
「ばあや、リボンが落ちているわ」
背後から幼い声が聞こえた。振り返ると、先ほど玉座で見た赤毛の少女が手にピンクのリボンを持って立っていた。その手に持つリボンに見覚えがあったリリアナは、はっとして自分の頭に触れる。そこにあるはずのリボンの感触がなかった。
「それ、リリアナのですわよ!」
彼女に向かって走る。侯爵家であるリリアナの持ち物を羨み、欲しがる者は多い。
――また盗られたらたまらない。
「はい、どうぞ」
赤毛の少女はにこやかな笑顔でリボンを差し出した。奪い返そうと意気込んでいたリリアナは毒気を抜かれて立ち止まる。
「あなた、オースウェル騎士団長様の娘さんでしょう? お兄様に囲まれる姿がお姫様みたいで、素敵だったわ」
にこにこと赤毛の少女はリリアナをまっすぐに褒めるから、リリアナは少し狼狽えた。
――リリアナがお姫様だなんて事はもうわかってるのよ。
「カーテシーもすごくお上手でした。私、まだふらついてしまうの。あなたみたいに綺麗にできるよう、練習をがんばるわ」
誰より綺麗に見えるように、誰にも負けないように、リリアナは淑女の挨拶を練習してきた。
なんと言われたって、かわいいお姫様であるように、努力を重ねてきた。
初めて同性の女の子に褒められたリリアナは顔を赤くした。
「アイリーン様、そろそろ参りますよ」
侍女に声を掛けられた赤毛の少女はリリアナにリボンを手渡すとにっこりと微笑む。
「またお会いしましょうね」
城からの帰り道、馬車の中でリリアナは母に問いかける。
「お母様、アイリーン様とお話することは、できないのですか?」
初めて同い年の子供に興味を持った娘に、母親は優しく答えた。
「そうですね……皇妃様が時々お茶会を開かれます。リリアナが良い子にしていたら、連れていってあげますよ」
「わたくし、良い子にしますわ!」
「では、皇妃様に相談してみましょう」
母親の言葉にリリアナは胸を躍らせる。
しかし、皇妃様のお茶会が開かれることは、二度となかった。
この数日後、皇族毒殺事件が起こったのである。
リリアナのエピソード0でした。
実は、スタートから彼女は元性悪女子として書いていました。
だからところどころ、素の口の悪さがでてます。
初見で、この子すごいかわいいけど性格悪いんじゃ……って思った方は大正解。
アイリーンの前では最初めちゃくちゃがんばっていい子ぶっていました笑
それを踏まえて再度本編見ていただけたら、また違った味があるかもしれません。
次はフィデルの予定です。来週のどこかで投稿します。




