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失恋皇女は冠を掴む~初恋相手にふられた私、両片思いに振り回されてもう怒りました~【裏設定投稿中/完結】  作者: はるてん(次作執筆中)
冠争奪戦

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終章5話 それぞれの帰還


 猛スピードで仕事を終わらせて帰国したラグナルは、皇帝に呼び出された。早く離宮に帰りたくてうずうずしていた彼は、兄を心の中で呪いながら謁見室に入る。

 同じ皇帝の子であり、自分の方が流れる血が尊いというのに、兄が壇上から自分を見下ろしてくるこの部屋の構造が彼は心底気に入らない。


「御用でしょうか、兄上」


 貼りつけた笑顔で謁見したラグナルの顔は、すぐに崩れることとなる。


「ラグナル。お前に、ヴォルム侯爵令嬢との婚姻を命じる」


 ヴォルム侯爵家。豊かな土壌と広大な土地を持ち、農業に特化しているが、悲しい程に政治能力がない一族だ。


「どういうことですか」

「言葉の通りだ」


 顔色を悪くするラグナルにローグヴァルトは淡々と言葉を返す。


「私に、一貴族になり下がれと?」

「その通りだ」


 返答内容にも感情のない答え方にも、ラグナルは怒りがこみ上げるのを抑えられない。


 七年ぶりの屈辱だった。あの時も父親から突然、降爵の話を持ち掛けられた。

 エル・ドラドールから人質として嫁いできた母を死に追いやり、息子の自分も皇族から廃そうとする父が許せなかった。だから、母から受け継いでいた毒薬を城の食糧に注入させた。


「なにを、ふざけて」

「お前の留守中に、アイリーンが誘拐され、お前の離宮から発見された」


 刺しこまれたその言葉は、沸騰していたラグナルの頭を一気に冷ました。既に計画が頓挫した絶望と、自分に疑念が向けられている恐怖が彼を冷静に戻していく。


「私がその指示者だと?」

「さあ? それはわからん。が。お前の離宮が利用された。お前の管理責任は問われる」


 ――なぜ、ばれた。いや、それよりも。この場を切り抜けることが、今は重要だ。疑念を振り切り、婚約話を辞退しなければ。


 ――そうしなければ、私は。


 ラグナルは必死にうまい言い訳を探す。だが、どうしてもついてくる焦りが彼の思考を鈍くしていた。


 ――このままでは、まずい。このままでは、この私が、皇族落ちになる。


 言葉を紡げない異母弟にローグヴァルトは静かに畳みかける。


「それから、先月カドゥート家という男爵の家が家族全員殺されているんだが、そこにお前の執事が出入りしていたという証言もある」


 その言葉は、さらにラグナルを追い込んだ。


「カドゥート家の死体の状態は、七年前の皇族毒殺事件と同じ状態だそうだ」


 ――そこまで、調べがついているのか。


 ラグナルは息をするのも忘れてローグヴァルトの反応を伺う。そこまで調べられているならば、七年前の真実も、この男に握られたも同然だった。


 ――証拠はないはずだ。確たる証拠は、絶対に残してはいない。俺は、完璧にやった。


「証拠はない。が、お前をこのまま皇族としておくわけにはいかん」


 ローグヴァルトは紅い瞳を細めて冷徹にラグナルを見下ろしていた。


「教会への申請も既に済ませてある。王命だ。従え」


 反論は、できなかった。




 離宮に帰ると、執事も侍女もいなかった。ローグヴァルトに謁見するまで片時も離れなかった騎士すら、今はどこにいるかわからない。廊下にできた大きい血だまりが、留守中の出来事の全てを物語っている。

 抑えていた苛立ちを爆発させて、ラグナルは美しい調度品をなぎ倒した。


 ――俺が、降爵? 俺が? この七年、身を粉にして皇国のため働いてきたこの俺が? ふざけるな。俺は、グランディヴェルとエル・ドラドールの血を併せ持つ、皇帝になるべき男だぞ。


 音がするほど歯の根を噛みしめ、ラグナルは唸る。


 ――俺が一貴族に落ちるなど、そんなことはあってはならない。あるべきではない。


 七年前よりもひどい屈辱に彼は体の震えを抑える事ができない。苛立ち任せに壁を殴りつけた。


 ――既に教会に申請した? それがお前のやり方か。死に損ないが、調子に乗りやがって。そちらが強行手段でくるなら。こちらも、考えがある。


 灯りの無い部屋で、ラグナルは笑う。


 ――皇位を得るために、最適な女がいる。今までは余計な生き残りとして邪魔なだけだったが。このためにあれは生き残ったのだろう。


 雲間から、光が差しこんでくる。彼はそれば不気味な笑みを浮かべていた。


 ――婚姻なんて、先に事実を積み上げたほうが勝つ。



 ***



 その日、アルバート達が屋敷に帰宅するとそこには母パトリシアがいた。

 たおやかに波うつ黒髪に、女性らしいくびれた腰。二児の母だと言われても信じられない程艶やかなその姿は、かつてグランディヴェルの黒薔薇と謳われた栄光をまだ失っていない。


 その姿を見て、アルバートは目を見開く。


「アルバート、お前、私のいない間に随分好き勝手動いたようね」


 目だけが笑っていない笑顔を浮かべながらパトリシアはアルバートに歩み寄る。後ろに控えていたグレースは優雅に頭を下げた。その姿を見て、隣に立っていたカシアンも慌てて頭を下げる。


「久しぶりねグレース。貴女とも後で話したいわ。お隣の貴方も」


 妖艶な唇を三日月の型にしてパトリシアは二人に微笑みかけた。彼女は息子のアルバートには冷たい目線を送る。


「さ、お前は聴取の時間です。アイリーンとの婚約を辞退したというところからじっくり話を聞かせてもらいますよ」

「なぜ、ここにいるのですか、母上」


 質問を完全に無視した息子の問いかけにパトリシアは眉を上げた。苛立ちを覚えながらも、年長者として丁寧に答える。


「仕事を終えたからです。予定より一日早く終わったので、屋敷に戻る余裕が出来ました」


 母親の答えに、アルバートは息を呑んだ。鬼の形相で振り返る。グレースが素早く緊張を高めた。


「グレース! 今すぐ城へ行け!」


 瞬時に彼女は反応した。捕食動物のように屋敷を飛び出していく。


「ラグナルが国に戻っている!」

ラグナルの不敵な笑みは、何を考えているのか。

共に行動していたはずの母の帰還でアルバートも瞬時に事態を把握しました。


【終章6話:乙女の一騎打ち】7月11日(土)21:00頃更新。

完結まであと3話です。


ブクマや↓の★を一つでもいいのでいただけるとがんばれます。よろしくお願いします。

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