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失恋皇女は冠を掴む~初恋相手にふられた私、両片思いに振り回されてもう怒りました~【裏設定投稿中/完結】  作者: はるてん(次作執筆中)
学院入学編

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1章4話 過保護な騎士様とはじめての友人


 昼食後。

 アイリーンはリリアナとグレースを連れてプライベートサロンで過ごしていた。


 食堂内に用意された皇族用のバルコニーでフルコースの昼食をいただき、今はリリアナとゆっくりお茶の時間である。

 窓辺に置かれた三本脚の(トリポッド)ティーテーブルにティーカップとお菓子が並ぶ。


 リリアナは紅茶を飲む姿も可憐だった。

 グレースは扉番に徹しており同席はしていない。


 大きな窓からは美しい中庭のあちこちで学生たちが思い思いに昼食をとっているのが見える。

 侍女もおらず、三人だけのプライベートサロンはとても静かだった。


「先ほどはさすがでございました」


 リリアナは熱を持った目をアイリーンに向ける。


「調子に乗っていた方に、少し釘をさしただけよ」

「それでも、とても素敵でございました」

「リリアナの護衛もとてもかっこよかったわ」

「ふふ。初日はこんなところですわ」


 褒められたリリアナは澄ました顔で紅茶を飲む。


 アイリーンに接触しようと近づいてきた人たちを、リリアナは午前中だけで何人ブロックしたかわからない。先輩だろうと諦めの悪い者には容赦なく毒すれすれの正論を叩きつけ、切り捨てる様は騎士さながらだった。


 リリアナは国内でも上位の侯爵家令嬢とはいえ、そんな対応をして大丈夫なのかと少し心配したほどである。


「社交術の授業を終えていない方があんなにいらっしゃるなんてわたくし思いませんでした。求婚してきた馬鹿といい、皆様困ったものですわ」


 貴族学院は貴族としての教養が備わっているかデビュタント前の最終確認の場である。

 貴族としての知識が備わっているか厳しくチェックされ、基準に満たないものは合格するまで授業を受けなければいけない。


 初日の今日は社交術のテストからスタートしたが、そのテストの合否を待たずにアイリーンへの紹介を求める者が少なくなかった。

 三人は午前のテストは難なく合格し、午後は自由時間となっている。

 試験は皇族として厳しい教育を受けて来たアイリーンにとっては、苦でもない内容だった。


 ――心配せずとも皇女殿下なら今のままでも十分満点がとれる内容ですよ。


 学院入学を前に緊張していた頃。そんな風にアルバートに慰められたことを思い出すとアイリーンの胸が痛んだ。


 ――あんな慰めはもう、いらない。もう、あの人の言葉には縋らない。縋りたくなる私も、もういらない。


 その痛みを振り切るようにリリアナに問いかける。


「その、全てお断りしなくてもよかったのでは?」

「そんな! 甘いですわ皇女殿下!」


 アイリーンの言葉にリリアナは丸い瞳を見開いた。


「テストに合格もしてないうちから近づいてくる無作法者なんて相手にする必要なしです! どうせ婚約情報目当てなんですから!」


 鼻息荒くリリアナは力説する。


 長いこと皇女の婚約者が決まらないせいで、婚約者候補達には皇女と結婚できなかったときの婚約者候補が存在する。その候補にもまたさらに候補が存在し……と、アイリーンの世代は情勢を見据えすぎてなかなか婚約を本決めにできず、収拾のつかない有様になってしまっているのだ。


 情勢を気にせずに婚約した者たちもいるが、大半の令息令嬢が少なからず余波を受けていた。


「わたくし、皇女殿下には穏やかな学院生活を楽しんで欲しいんですの! 変な輩は全部わたくしがシャットアウトいたします! 皇女殿下は『学院生活を楽しむこと』だけを考えてお過ごしくださいませ!」

「あ、ありがとう、リリアナ」


 様々なしがらみに囚われているアイリーンが「楽しむことだけ」を考えるのは難しい話だ。

 けれどその心遣いが嬉しくてアイリーンは思わず笑顔になる。


 この子の手は放したくない、と思う。

 まだ行動を共にして数時間だが人柄の良さが伺えるし、わかりやすく好意を向けてくるその愛らしさは好印象だった。


 ——もう、誰の手も取らないと決めたはずなのに。それでも、この手は放したくないと思った。


「お話中、申し訳ありません。少しよろしいでしょうかリリアナ様」


 いつの間にか二人の傍に、扉前から移動してきたグレースが立っていた。


 リリアナとは対照的に、この黒髪の少女は寡黙で実直に護衛という仕事に徹しているため、アイリーンは彼女の人となりをまだ把握できていない。

 無表情で黒い瞳にじっと見つめられると、なんだか心の中を見透かされているようで少し落ち着かなくなる。


「どうかしましたの?」

「それが」


 そっとグレースがリリアナになにかを耳打ちする。

 アイリーンはサロンの扉が少し開いていることに気づいた。誰かが来ていることが窺える。

 その横で、耳打ちを終えたリリアナがこれ見よがしに頭を抱えて、ため息をつく。


「すみません皇女殿下。兄がご挨拶したいそうです。入室させてもよろしいでしょうか」


 アイリーンの胸に、反射的に三人の人物が浮かんだ。


 王党派筆頭、従兄でもある、アルバート・ヴェルストラーテン。

 武闘派筆頭、騎士団長令息、フィデル・オースウェル。

 振興派筆頭、絶大な経済影響力を持つ、カシアン・アセンダント。


 三人とも、アイリーンの婚約者候補だ。

 血統か武力か財力か。皇帝が慎重に見極めている間に貴族たちの思惑はますます肥大している。


 リリアナの兄は、婚約者候補の一人だった。

ついにアイリーンの両翼となる二人の騎士が揃いました。

これまで守られるだけだったアイリーン は、もう「守られる側」ではありません。

彼女の「女帝への道」が、ここから本格的に動き出します。


次話、もう一人の婚約者候補・フィデルが登場。

【第5話:冷めた紅茶と、髪の色】本日21:00頃に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
家の中での高等教育が前提で、学院は下層貴族が教育しそこなった連中への矯正と、社交関係の構築が主目的なわけですね。 空気としては設立主旨がだいぶ形骸化してそうな気配もするし学院の運営勢力も気になります …
はるてん様、日々の小説の執筆とご投稿、お疲れ様です。実ると信じていた片想いが壊れても、心の大事な何かが欠けたまま戻らなくとも、国を継ぎ守っていく者としての自覚と矜持で気丈に振る舞うアイリーンに、自然と…
リリアナいい子(*´꒳`*) 三騎士が登場して、どんな展開になるか期待です。
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