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失恋皇女は冠を掴む~初恋相手にふられた私、落ち込んでいたけど両片思いに振り回されてもう怒りました~【完結保証】  作者: はるてん
冠争奪戦

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終章3話 アセンダント鋼の光

 馬を走らせ、激しく揺れる馬車でアルバート達は城に向かっていた。女性陣は別の馬車、フィデルは馬で追走している。


「何度も聞くが、見間違いは許されないぞ」

「何度も言わせないでください! あれは絶対にアセンダント鋼の光です!」


 凄むアルバートにカシアンが強気で答える。


「俺がどれだけアセンダント鋼を光らせてきたと思ってるんですか! 見間違えるなんてありえない!」


 彼の強気はそこまでで、あとは次第に萎んでいく。


「まあ、城にはアセンダント鋼を既に納品しているので、誰かが使ってる、って可能性も、あります、が……でも、あんな不規則にちらつく光り方はおかしいです! 誰かが意図的にやっています!」

「わかった」


 アルバートは腕を組みなおすと低くつぶやいた。紅い目の瞳孔はこれでもかというぐらい開いている。


「それなら、ここからは俺の仕事だ」


 そこには地獄の窯のような怒りが沸き立っていた。




 夜中の謁見室でアルバート、フィデル、カシアンの三人が頭を垂れていた。

 静まり返ったそこに、軽装の皇帝ローグヴァルトがアルバートの父、エドマンドを連れて現れた。


「随分な時間の謁見だな」

「緊急事態のため、非礼をお許しください陛下」

「アイリーンが離宮にいる、だったか」

「はい。兵の突入を許可いただきたく参りました」


 アルバートの言葉に、ローグヴァルトは深くため息をつく。


「あれは城の中とはいえラグナルに与えたものだ。そう簡単に許可は出せん」

「わかっています。そこを、なんとか」

「既にグリーヴァンス公爵家に兵を投入して空振りに終わっている。これ以上の失態はさらせん」


 それまで傍観していたエドマンドが口を開く。


「ラグナル殿下の離宮に兵を向ける意味を、お前は正しく理解しているか?」


 それは、反逆罪の容疑をラグナルに向ける、ということだった。もし無実だった場合、逆に疑惑をかけられたとラグナルがクーデターを起こす口実を渡すことになる。


「勘違いだった、で済む話ではない」

「確たる証拠を形にして持ってこい。出なければ許可はだせん」


 国のトップ二人の冷酷な判断にカシアンは顔を青くし、フィデルは歯を食いしばった。


 ――そんな証拠があったら既に出している。無理な要求だ。


 居場所が分かったのに手が出せない絶望に二人が打ちひしがれていると、耐えきれずにアルバートが立ち上がった。

 顔を上げる。

 紅と紅がぶつかる。


「アイリーンがそこにいると言っているんだ! 証拠も理屈も救い出してからいくらでも並べてやる! いいから城の門を開けろ!」


 その咆哮は壁を揺らし、天井でこだました。


「侵入罪で死刑になるとしても俺は行くぞ!」


 その絶叫に、父親のエドマンドが顔をしかめる。窘めようと口を開いたところで、ローグヴァルトが動いた。玉座を降りてアルバートの前に立つ。怒りに震える紅い目を上から見下ろした。


「良い目だ」


 甥の成長を噛みしめるようにローグヴァルトは笑った。


「兵を出すことは許さん。だが、お前とその部下数名が離宮に入る許可は出す。そこまで言うなら、外れた時の責任はお前が取る覚悟で動け」


 脅されてもアルバートの瞳は揺るがない。その決意の深さにローグヴァルトは満足そうに目を細めた。


「愛があるなら、お前がその手で救ってみせろ」





 窓辺に座り、アイリーンは光り輝くペンダントのアセンダント鋼を手にしていた。時折手で覆い隠したりして光を不規則にさせる。それは灯りが蝋燭だけしかない世界で、異質な存在感を放っていた。


 この行為が誰かに届くかわからなくても、それが今のアイリーンにできる最大の抵抗だと信じて彼女は毎晩それを続けている。

 監禁されてから一日と半日。水すら口にしていない状況で、徐々に体の不調がでてきたのをアイリーンは感じていた。


 ――喉が渇いた。口の中が粘ついて気持ち悪い。体も、とても重い。なんだか寒くなってきた気もする。


 思考はまとまらなくなりつつあった。それでもアイリーンは信じている。


 ――絶対に、アルバート様が助けてくれる。




 窓の先のバルコニーに手がかかったのはそんな時。

 その人物は、柱の装飾や窓の庇を上手に使い、巧みに壁を登ってそこにたどり着いた。バルコニーの手すりの上に登り上がる。


 今は一つにくくられている金色の髪が暗い夜空に煌めいた。


「アイリーン様!」


 曇りのない空色の瞳が涙を一杯にしてアイリーンを見つけた。


 リリアナは腰に括り付けていた縄を手すりにしっかりと括り付けると反対側を外に放り投げた。


「いましたわ」


 抑えめの声で吉報を届けて、彼女はすぐさまアイリーンが居る窓にはりつく。駆け寄ってきたリリアナにアイリーンも近づこうとしたが、後ろで張った鎖がそれを許さなかった。


「窓を開けますわ」


 リリアナは薄いナイフを取り出すとそっと扉の隙間に差し込んで中にある閂を少しずつずらし始めた。

 下から縄をつたってグレースが上がってくる頃、軽い音を立てて閂が落下する。窓を開けたリリアナは真っ先にアイリーンに抱き付いた。


「アイリーン様! よかった! よかった!!」


 アイリーンの体温を感じて涙するリリアナは、すぐに違和感に気づく。


「なんですの、これ」


 アイリーンに着けられた首輪と繋がった鎖を見つけ、瞬時に鬼と化す。


「悪趣味すぎます……変態が」


 素材が革のそれを、リリアナはわしづかみにすると怒りで震えながらナイフで切り裂いた。首輪と鎖の重みがアイリーンの体から消える。


「アイリーン様」


 石畳のバルコニーをグレースが歩いてくる。


「御無事でよかった」


 その黒い瞳も涙に濡れていて、アイリーンも抑えつけていた感情がこみ上げてくるのを感じた。


「正面から兄たちが制圧をかけているはずです。参りましょう」


 リリアナがアイリーンの手を取って立ち上がらせようとした時。


 音もなく部屋の扉が開いた。そこからアイリーン目がけて一直線にナイフが放たれた。赤橙の背中に銀色が迫る。甲高い音を立てて、それをグレースが仕込み槍で叩き落した。


「アイリーン様!」


 リリアナがアイリーンに覆いかぶさる形で床に伏せる。

 暗い廊下から入ってきた侍女の佇まいは、侍女のそれではなかった。

アイリーンの元にたどり着いたリリアナとグレース。

けれどまだ危機は続きます。

【終章4話:白む空の下で】7月4日(土)21:00頃更新。


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