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失恋皇女は冠を掴む~初恋相手にふられた私、落ち込んでいたけど両片思いに振り回されてもう怒りました~【完結保証】  作者: はるてん
冠争奪戦

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終章2話 魔王起床

 アルバートが目覚めたのは、その日の夜だった。

 侍女たちから報せを受けたグレースとカシアンはそれぞれ離れと自室からアルバートの部屋に飛んでいく。


「ああ、お前たちか」


 ベッドに横たわるアルバートには長い前髪が垂れていて、普通の少年のように見えた。土気色だった顔色がだいぶ良くなっている。


「すまない、迷惑をかけた」


 まだ覚醒しきっていない様子で少し呆けた様子のアルバートをグレースは苦しい思いで見る。


 ――これからこの顔が歪む情報を、この人に与えなければならない。


 部屋の外では既に、すぐ動き出すであろう主人に備えて外出の準備が進められていた。


「アルバート様。お伝えしなければならないことがございます」

「なんだ、改まって」

「アイリーン様が、いなくなりました」


 アルバートはすぐには反応しなかった。ゆっくりと言葉を噛み砕いて、理解した途端、顔に皺がよる。


「なにをふざけたことを言っている」

「ふざけておりません。事実です。昨日外出された後、お部屋に戻られなかったそうです。今、騎士団が総出で皇都内を捜索し」

「俺を怒らせて楽しいのか」


 グレースの胸倉が掴まれる。皇女であるアイリーンが居なくなるなんて、ふざけた冗談としか彼は思えない。

 黒髪の間から彼女に凄むその紅い目は地獄から来た魔物のそれだった。


 その様子をカシアンは震えながら見ていた。自分は彼を怒らせるとわかっている情報を伝える度胸はない。グレース嬢はよくできるなと思いながら、できる限り存在感を消すため体を小さくして立つ。


 アルバートに凄まれても、グレースは怯まなかった。真正面から彼の威圧を受けながら言葉を続ける。


「既にアイリーン様の消息が消えて丸一日が立ちました。アルバート様は、舞踏会の日から四日、眠っていらっしゃったのです」

「四日?」


 想像もしていなかったのか、アルバートの拳から力が抜けた。

 力の抜けてずり落ちそうになる拳をグレースが握る。


「お願いですアルバート様。我々だけでは満足に情報を得ることさえできません。指揮を、お願いします」


 数秒、沈黙が流れた。


「カシアン」


 突然名前を呼ばれたカシアンは失禁しそうなほど飛び上がった。


「地図を用意しろ。アイリーンの行動経路を洗いなおす。グレースは我が家にある情報を全てまとめろ。誰か早馬を出せ! オースウェル公爵家に行ってフィデルを連れて来い! 城にいる父上にも情報提供を求めろ!」


 アルバートはベッドから立ち上がると前髪をかき上げた。


「俺がいない間に随分好き勝手してくれたな」


 それは地獄から響いてくるような低い声だった。



「待たせた!」


 鐘一つ分の時間でフィデルはやってきた。狩猟用のチュニック姿に剣を携えている。後ろには同じチュニック姿で髪を一つにくくりあげたリリアナがいた。


「やっと起きたんですのね、遅いですわよ」


 机に広げた地図と資料を睨むシャツ姿に髪をオールバックにしたアルバートにリリアナがそうこぼす。


「フィデル! アイリーンが連れていたという騎士と面識はあるか」

「いや、名前と顔しか知らない」


 地図を睨み、アルバートは考え込んだ。その隣に立ち、フィデルは言葉を紡ぐ。


「グリーヴァンス家の捜索は今朝方行われたが、異常は何もなかったそうだ。屋敷内はもちろん、納屋から馬小屋まで全て捜索したが、なにも発見できなかったと」

「あの家はアイリーンを連れ出す口実に使われただけだろう」


 アルバートは父からの手紙を睨み付ける。そこには、現在に至るまでの情報が走り書きでつづられていた。


「皇都内のあれ名義の邸宅は全て捜索済み。か。陛下もあれを疑っていると見える」


 アルバートは地図の上に両手を叩きつけた。

 頭の中で、ラグナル派と判明していた貴族たちを必死に思い返す。


 ――考えろ。あれはどこにアイリーンを隠す。誰が力を貸す。どこまでが真実で、どこからが嘘だ。皇都のどこかにはいる。絶対に。次はどこからつぶせばいい。


 ――だが。あれが、アイリーンの監禁なんて一番重要な任務を、他人に託すか?


 拭いきれない違和感がアルバートを襲っていた。



 重い空気に耐えられず、カシアンは部屋を抜け出した。廊下で新鮮な空気を吸い込む。


 ――アイリーン様、どこに行ったんだろな。


 まだ関係の浅い彼女に思いを馳せながら、カシアンはそっと胸ポケットを抑えた。


 ――早くこの試作品お見せして、意見を聞きたいのに。


 連日の徹夜が徒労に終わりそうな気配にため息をつき、窓の外の風景を眺めた時。カシアンはちらつくそれに気づいた。



 叩きつけるように部屋の扉が開かれて、その場にいた全員が入ってきた人物を見た。顔を真っ赤にしたカシアンが廊下を指さし、口を開けたり閉じたりしている。

 その奇妙な行動を全員が訝しんだ。


「なんですのお前、こんな時に笑いはとらなくてもよろしくてよ」


 リリアナの叱責が飛ぶが、カシアンは気にしない。


「……いました」


 その言葉にアルバートの目が反応する。


「アイリーン様です! いました!」

ついに起きたアルバート。そして震えあがるカシアン。

そして彼が見つけたものとは。


【終章3話:アセンダント鋼の光】7月1日(水)21:00頃更新。


ブクマや↓の★を一つでもいいのでいただけるとがんばれます。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
アイリーンを見つけた立役者っぽいのに、「笑いはとらなくても、よろしくてよ」って冷たく言われちゃうカシアンが不憫で可愛いですね(*´꒳`*) 不憫はいいぞ……!
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