表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋皇女は冠を掴む~初恋相手にふられた私、両片思いに振り回されて困っています~【完結保証】  作者: はるてん
初公務編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/36

2章9話 懇願と、女神の審判

 額から指を解放するとアルバートはアイリーンに向き直る。


「昨日は、アイリーン様のお心を察せず差し出がましい発言をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「……わかってくださればよろしいのです」


 アルバートの謝罪にふてくされるアイリーンは少し頬が赤い。


 沈黙が、二人の間に流れた。

 繋いだままの指先に、まるで心臓がそこへ移ったかのように脈が伝わってくる。


 ――手を繋ぐなんて、いつ振りかしら。


 恥ずかしい。でも、離したくない。


「なぜ、院内の見学なんかに出たんだ」


 指先を触れ合わせたまま、アルバートがそう尋ねた。


「大事な式典前にうろつくなんて、君らしくない」


 アイリーンが顔を向けると、アルバートは顔を背けていた。

 耳が、少し赤い気がする。


「私も、行きたくはなかったのですが。叔父様に負けてしまって」

「……は?」


 アルバートは紅い目を見開いた。聞こえた単語が信じられなかった。


「おじ、うえが……いたのか」


 絞り出すように声を出す。一ミリの反応も見逃さない勢いで顔を覗き込まれて、アイリーンは言葉を失う。

 アルバートの反応は、異常だった。


「ええ。公務の合間に、いらしたみたいで」

「大丈夫だったか。なにか、されたり」


 アルバートはアイリーンの腕をつかんだ。痛いぐらいに力をこめてくる。


「なにも、なかったです。挨拶を、したぐらいで」


 アルバートの表情は心配というより、恐怖に染まっている。

 とても、演説の前の出来事を話せる雰囲気ではなかった。アイリーンは彼を落ち着かせるために言葉を紡いだ。


「そう、か……」


 アイリーンの腕をつかむアルバートの手から力が抜ける。彼は顔を手で覆った。

 ただならぬ様子に、アイリーンは顔をしかめた。どう見ても、アルバートは変だ。そっと彼の肩に触れる。


「なにか、あったのですか?」


 その問いに、アルバートは答えなかった。

 顔を伏せたまま、自身の肩に触れるアイリーンの手を握る。再び、痛いぐらいの力が込められた。


「あれとは、二人きりにならないようにしてくれ」


 叔父のラグナルとアイリーンは皇族だ。常に従者がついているはずの立場で、二人きりで会うような関係でもない。

 アルバートがなにに怯えているか、アイリーンは理解ができない。



 ――完璧に、守るつもりでいたのに。俺は、こうも簡単に出し抜かれた。


 自分の力の無さにアルバートは打ちひしがれていた。


「頼む」


 余裕のない、縋るような声。


「わかりました。気をつけます」




***




 アイリーンとアルバートが大ホールに着くと、既にリリアナ達も病院関係者も揃っていた。

 アイリーンを礼拝堂に残して消えた看護師を探すため、関係者全員が整列させられていた。


 アイリーンは鋭い目で大ホールに整列した病院関係者の顔に視線を巡らせる。


「……いませんね」


 アイリーンの言葉にフィデルとアルバートの顔が曇った。


「全員を集めろと言ったはずだが」


 低いアルバートの声が大ホールに響く。彼の苛立ちはもう限界だった。

 虫を見るような視線を向けられて、最前で立っていた責任者の男性が震えた。


「か、関係者はこれで全部です! 今日は式典なので、休んでいる者もおりません!」


 弁明する責任者にアルバートが近づき、無言で殴り飛ばした。

 高位貴族の暴力に病院関係者全員が震えあがる。アイリーンはその唐突さに瞳を丸くした。

 アルバートは床に転がった責任者の胸倉をつかむと無理矢理顔を上げさせてさらに詰め寄った。その紅い瞳には、ここにいない誰かへの怒りも滲んでいた。


「口答えをするな。アイリーンがお前たちの案内の結果、礼拝堂に閉じ込められた。これは事実だ」


 初めて見るアルバートの暴力的な姿にアイリーンが困惑しているとフィデルが動いた。


「アルバート、むやみに殴るな。口がきけなくなると面倒だ。尋問なら殴るより骨を折れ。そちらのほうが効く」


 またもや飛び出た物騒な言葉にアイリーンは耳を疑った。普段爽やかなフィデルの口から出たとは思えない。


「ああ、医療関係者ならば、骨が折れた後の不自由さも理解しているから良さそうだな」


 飛び出し続ける過激な言葉が衝撃すぎて、アイリーンは隣に立つリリアナに助けを求めた。


「リリアナ、二人はどうしたのですか。止めてください」

「アイリーン様、残念ですが、あれが二人の本来の姿ですわ。アルバート様は特に」


 アイリーンとは違い、リリアナは冷ややかな目で一部始終を見つめていた。隣に立つグレースも動じていない。

 衝撃の事実を知って狼狽えるアイリーンに留めの一言を伝える。


「私が見る限り、あの方、アイリーン様の前では随分猫をかぶっていらっしゃいましたわ」


 婚約辞退を告げられても、わずかに残っていた優しいお従兄さまのアルバート像が音を立てて崩れた。

 けれどこのまま二人の好きにさせておくことは出来ない。彼女にはまだ責任者に聞きたいことがあった。


「お二人とも、退いてください。私、その方に聞きたいことがあるのです」


 アイリーンの一言で、アルバートとフィデルはさっと責任者から退いた。

 救済の一声をかけてくれたアイリーンを、責任者は女神を崇めるような瞳で見つめる。その視線にアイリーンは優しく微笑んで問いかけた。


「礼拝堂の隠し扉について知っているのは誰ですか」


 みるみる責任者の顔から血の気が引いた。

 それを見ていたアルバートとフィデルは再度責任者に詰め寄る。


「そんなものがあるとは初耳だな」

「知っていることを吐け。全てだ」


 二人に挟まれた責任者がアイリーンにもう一度縋るような視線を向けるが、その視線をアイリーンは叩き落とした。

 責任者に背を向けながら言い放つ。


「誰かの指示であの扉は作られたはずです。お二人とも、しっかりとお話を聞いておいてください」




***




 夜、寝台でアイリーンは一人考える。


 間違いなく、今日の出来事は罠だった。消えた案内人の行方も依然としてわからない。ラグナルの言葉の意味も。

 院内の見学に行くか迷うアイリーンを強情に送り出し、スカートの綻びを理由に演台から遠ざけようとした。そもそも公務の予定が詰まっているはずなのに、あの場に現れたこと自体がおかしい。


 ――証拠はない。でも、今日の出来事は偶然とは思えない。叔父様。貴方は……


 叔父のラグナルとは、昔からあまり接点はない。

 ラグナルの母はエル・ドラドール自治領の元姫で、アイリーンの祖父に側妃として嫁いできた女性だった。

 正妃の子として王太子ローグヴァルトがいたため、側妃とラグナルが公的行事に参加することもほとんどなかった。

 側妃のことは、アイリーンもよく知らない。アイリーンが物心つく前に、彼女は女神様のもとへ召された。

 離宮で一人暮らしていたラグナルと顔を合わせるようになったのは、七年前の毒殺事件の後からだ。


 会うといつもにこやかに笑って話しかけてくれていた優しい叔父の姿を思い出して、アイリーンはため息を吐いた。

 考えたくないのに止められない思考にアイリーンは顔を覆う。


 額に手が触れたことで、アイリーンはアルバートを思い出した。指先に温もりが蘇る。

 アルバートの額に触れた時の熱を思い出すと顔が赤くなった。

 礼拝堂から引き揚げられた時の、頬に触れたシャツの感触や、食い込むほど腰に回された手の感覚が次々と蘇る。




 翌日、城には祖母レジーナからの招待状が届いていた。

 金縁で飾られた重厚なそれは、毒のような強い香りを漂わせていた。



第二章 初公務編 完

調剤室での甘い体温の分かち合い。

からの、アルバートとフィデルの「本性」解禁回でした。


これにて第2章完。来週からは第3章「舞踏会編」へ突入です。

舞台は再び学院へと戻ります。

今回は出番がなかった彼も再登場します。


【第3章第1話:毒のお茶会と、居心地の悪い食卓】

5月27日(水)21:00頃更新予定です。


次章もどうぞよろしくお願いします!


面白い、続きが気になる!と思ったら、ブックマークや評価で応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ