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【完結保証】婚約辞退された皇女は冠を掴む【第2章開始】~繋ぎなおす。必ず~  作者: はるてん
学院入学編

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1章19話 一番近くて、一番遠い人


 恋の熱に浮かされていたアイリーンの胸に冬の嵐が吹き荒れた。

 春の陽気だった空気が、急激に冷えていく。


 アルバートが、完全に話を違う方向に受け取ってしまったことをアイリーンは悟る。

 全ては、自分がカシアン様のことを相談したから起こったこと。

 それは、わかっている。


 でもだからといって、そうですねなどとは言えなかった。


 私が好きなのは、貴方なのに。

 どうしてこうなってしまうのですか!?


 少しだけ涙の滲んだ目でアイリーンはアルバートを見上げた。

 翠緑の目に困惑したアルバートが映る。


 ここで感情的に言葉をぶつけても、相手には届かないことをアイリーンは知っている。

 こういう誤解は冷静に一つずつ訂正していかなければ、さらに誤解を生むだけなのだ。


 ああでも、本当に。どうして。

 私の気持ちは、欠片もこの人に伝わっていないの。


 悲しさと悔しさで、貴族としての作法も皇女としての矜持も頭から消え失せる。

 指先が、アルバートの胸板に触れる。


 気づけばアイリーンはアルバートを押し出していた。

 弱弱しい力で押されて、アルバートが一歩後ずさる。


 もう、振り回されたくない。


「もう来ないでください」


 詰まりそうな言葉をなんとか放つ。


 下を向いたまま別れを告げたアイリーンは、彼に返答の隙も与えずにきびすを返した。

 翻る赤橙の髪をアルバートは反射的に追いかけようとする。


 けれど彼が踏み出すより前に涙目のリリアナが立ちはだかった。

 この、馬鹿男。

 ――無言で扉を閉める。

 重い拒絶の音が廊下に響き渡った。


 胸に残る小さくも確かな拒絶の感触を、アルバートは茫然と繰り返し辿る。

 胸についた、見えないはずの指の痕が彼女のこれまでとは比べられないほどの悲しみを表していた。


 扉の前に立ち尽くしたまま、アルバートは壁に手をついた。

 このまま扉を叩き割って飛び込み、力ずくで彼女を閉じ込めてしまいたい衝動が、波のように引いては押し寄せる。


 近づくなと警戒されているうちは、大丈夫だった。真摯に向き合えば、いつかその警戒も解ける。

 また、その手を取れる。

 だが、出ていけと拒絶されるのは、程度が違った。あちらが振り払った手は、どうすればもう一度差し出してもらえるのか。


 無理矢理出させればいい、という思考を、胸についた指の痕が否定してくる。


 時間をかけて、彼は自分が選択を間違えたことにやっとたどり着くのだった。




***




 廊下に残されたアルバートを置いてサロンの中央まで部屋を戻ったところで、アイリーンは胸をおさえた。

 息をするのも苦しいぐらい、胸が痛い。

 婚約を遠回しに辞退された時も胸が痛かったが、

 実際に他の人と引き合わされるのは、比べ物にならないほど苦しかった。


 やっぱり、リリアナの話は嘘だったのかしら。


 悪い考えがアイリーンの頭に浮かび、大波のように悲しみが押し寄せてくる。

 悲観的思考に溺れそうになって、アイリーンは大きく息を吸い込んだ。

 ゆっくり深呼吸をして感情を静める。


 落ち着いて。落ち着いて。

 私の話し方も悪かったかもしれない。なにか行き違いがあったかもしれない。

 一つずつ、確かめないと。


「リリアナ」


 アイリーンが振り返ると、リリアナが静かにぼろぼろと涙を流しながらそこにいた。

 両の手を胸の前で固く組み、細い肩を小さく震わせて唇をぎゅっと引き結んでいる。


「リリアナ? どうしたの」


 自分も泣きそうだったことを忘れて慌ててアイリーンが駆け寄ると、

 リリアナはさらに顔をくしゃくしゃに歪めて嗚咽をもらす。


「申し訳、ございません……わたくしが、会いに行くようお勧めしたばかりに

 ……アイリーン様に、悲しい思いをさせてしまって」


 言葉の最後は嗚咽に埋もれていた。

 彼女の瞳からは罪の重さに耐えかねるように、次から次へと大粒の涙が溢れ落ちる。

 その涙をアイリーンはそっと拭った。


「リリアナは悪くはないでしょう? でも……そうね」


 夕日を背に、力なく笑うアイリーンの目にも涙が滲んでいた。

 まつげを濡らしたその涙は、やがて一粒の雫となって頬に落ちる。 


「一番近かった人だったのに。どうして今はこんなに心が離れてしまったのかしらね」





第一章 学院入学編 完


——第2章、激動の予感。

「隙を見せるなよ。敵はどこにいるかわからん」

「ぐじぐじしてる暇はないですわよ勘違い男!」

「綺麗になったね、アイリーン。もうすっかりレディだ」

「来い! アイリーン!」


第2章【初公務編】明日朝9:00頃より開幕。


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