姉妹の対峙
萬里花という「執念の檻」を抜け出し、僕が辿り着いたのは、瀬那家の裏庭だった。
一条家と鳳家の同盟が瓦解し、僕を取り巻く「偽り」の均衡が崩れ去った今、この場所こそが僕にとっての最後の戦場になるだろう。
月明かりの下、二人の少女が向かい合っていた。
「聖域」の象徴である結衣と、僕の「本能」を唯一覚醒させた陽葵。
「……お姉ちゃん、もう隠しきれないよ」
陽葵の、静かだが鋼のように硬い声が夜の空気に響く。
結衣は震える肩を抱き、信じられないものを見るような目で妹を見つめていた。
「陽葵、何を言ってるの? 一条君とあなたが……そんな、ずっと前からだなんて、そんなわけないじゃない」
結衣の言葉は、自分自身を必死に守ろうとする透明な防壁のようだった。
けれど、陽葵はその壁を、僕たちが積み重ねてきた「事実」という鈍器で淡々と粉砕していく。
「お姉ちゃんの愛は、一条君にとって『綺麗すぎる』の。……私と一条君はね、もっと理屈じゃないところで繋がっちゃってるんだよ。言葉や約束なんてなくても、肌が触れればそれだけで世界が完結しちゃうような、そんな異常なまでのシンクロ。朝も昼も夜も、お互いの熱がないと呼吸すら苦しくなる……そんな『依存のループ』に、私と彼はもう落ちてるんだよ」
陽葵の口から語られる、僕たちの関係。
それはかつて夢見た「約束の恋」のようなキラキラしたものではない。もっと生々しくて、効率的で、けれどどうしようもなく僕という個体を維持するために不可欠な「エネルギー交換」の記録だ。
「お姉ちゃん。愛だけじゃ、どうしようもない空腹があるの。……私たちは、それをお互いでしか埋められないんだよ」
陽葵の瞳には、姉への罪悪感と同じくらいの、揺るぎない確信が宿っていた。
結衣はついに泣き崩れた。
僕が求めたのは、10年前の純粋な約束ではなく、今この瞬間に自分を「一」として完成させてくれる、陽葵との狂おしいほどの相性だった。
泣きじゃくる姉の背中を、皮肉にも一番その心を傷つけたはずの陽葵が優しくさする。
僕はその光景を、ただ見守ることしかできなかった。
酷い男だ。自分でもそう思う。
けれど、結衣の涙を見ても、僕の細胞が真っ先に反応してしまうのは、やはり隣に立つ陽葵から放たれる、あの「これだよこれ!」という確かな生命力の波動なのだ。
自分でも笑えるほどの業。でも、この圧倒的な「需要と供給の一致」こそが、僕の選んだ、偽りのない真実なんだ。




