夜の静寂、陽葵の不在
嵐のようなバレンタインが、ようやく終わろうとしていた。
自室のベッドに横たわり、僕は天井を見つめる。全身を巡る血流は穏やかで、心拍も一定のリズムを刻んでいる。
萬里花、冴、結衣、そして瑛理香。
四人のヒロインがそれぞれの持ち味で僕の乾きを潤し、最後に瑛理香が放った情熱の炎が、僕の「量」という名の空洞を強引に埋め尽くした。
「……満たされてる、な」
不思議な感覚だった。陽葵という唯一無二の共鳴者を見つけたとき、僕は彼女こそが僕の業を背負える唯一の存在だと確信した。けれど、今日という一日は、その確信を揺るがす別の可能性を提示してきた。
一人の聖域では足りなくても、複数の個性がリレー形式で僕を繋いでいけば、物理的な満足には到達できる。それは極めて効率的で、ある意味では贅沢な「正解」の一つのようにも思えた。
これもありかもしれない。
一人の運命にすべてを委ねる危うさよりも、複数の絆によって補い合う、この分散された充足。
だが、そう自分に言い聞かせる脳の片隅で、微かな、しかし無視できない違和感が疼いていた。
今日、陽葵だけが僕の前に現れなかった。
彼女からはチョコも、誘惑も、そして僕が彼女の肌から吸い上げるあの独特の「生命の熱」も、何一つ提供されなかった。
他の四人と触れ合っている間、僕は確かに陽葵を忘れていた。
それでいいはずだった。身体はもう、十分に栄養を摂取したと満足のサインを出している。
なのに、この静寂の中で一人になると、なぜだろう。
四人がかりでようやく積み上げたこの「城」が、陽葵が放つたった一筋の光の前では、ひどく脆く、頼りないものに思えてくるのだ。
結局、僕は「一対一」から逃げているだけではないのか。
一人の人間にすべてをぶつけ、すべてを受け止めてもらう。そのあまりに重く、剥き出しの「個」としての繋がりを、僕は多人数というシステムで薄めているだけなのではないか。
窓の外、月明かりが冷たく部屋を照らしている。
明日になれば、また日常が始まる。
偽装の恋人。初恋の約束。降り積もる執着。
僕が選ぶべきなのは、四人でようやく埋められる「平和な妥協」なのか、それとも、たった一人で僕の全てを飲み込んでしまう「陽葵」という怪物なのか。
枕元に置かれた、空になったチョコの箱。
それをゴミ箱に捨てながら、僕は目を閉じた。
身体は満足している。けれど、魂の奥底にある「零」の部分が、陽葵の不在という欠落を、これまでになく激しく叫び始めていた。




