萬里花の猛攻
聖夜が明け、新年を迎える準備に追われる一条家本宅。そこに、嵐のような「熱」が舞い込んだ。
「レイ様ぁ! 寂しかったでしょう? この萬里花が、貴方のすべてを癒やして差し上げますわ!」
常磐萬里花――僕の自称「許嫁」。彼女は親同士の約束を盾に、強引に一条家への泊まり込みを決めてしまった。
今の僕は、極めて危険な状態にあった。瑛理香との火花散る摩擦、結衣への裏切りにも似た罪悪感。それらすべてが澱のように溜まり、僕の肉体は常に暴発寸前のエネルギーを孕んでいる。
僕の瞳に宿る、逃げ場のない「飢え」。萬里花はそれを、自分への盲目的な情愛だと、あまりにも都合よく解釈していた。
「見てくださいまし。レイ様のために、とびきりの装いを用意いたしましたの」
深夜。僕の私室に忍び込んできた彼女は、薄い衣を纏い、狂気的なまでの献身を瞳に宿して僕に縋り付いた。
その肌は、冬の寒さを忘れさせるほどに熱い。だが、それは陽葵のような生命の循環を感じさせる熱ではない。僕という存在を、自分という「岩(常磐)」の中に閉じ込め、窒息させようとする一方的な略奪の熱だ。
僕は抗えなかった。湧き上がる衝動を抑えるため、僕は彼女を褥へと引きずり込む。
一度、二度……。
萬里花は歓喜の声を上げ、僕の背に爪を立てる。彼女は僕の「量」に圧倒されながらも、それを愛の証明だと信じて疑わない。
しかし、回数を重ねるごとに、決定的な違和感が僕を襲う。
彼女の身体は、僕の放つ毒を中和してはくれない。むしろ、彼女の執着が僕の喉をさらに乾かせていく。
萬里花は、僕の「三度目」を求める視線に、初めて恐怖にも似た戦慄を覚えたようだった。その顔は青ざめ、呼吸は浅い。彼女の虚弱な体躯は、僕という怪物の本能を受け止める器としては、あまりに脆すぎたのだ。
「……レイ、様……。もう、萬里花、動けませんわ……」
涙を浮かべて横たわる彼女の横で、僕は虚無感に包まれていた。
どれだけ重ねても、満たされない。どれだけ求めても、彼女は僕の鏡にはなれない。
暗闇の中、僕の指先が求めていたのは、萬里花の絡みつく腕ではなく、あの陽葵との「透明な共鳴」だった。
互いに多くを語らずとも、触れるだけで世界が完成するあの充足。
一日に何度も、呼吸をするように重ね合える、あの地獄のような相性。
僕は隣で眠る萬里花の熱に当てられながら、雪の下で自分を救ってくれた少女の、あの乾いた、しかし生命力に満ちた声を激しく渇望していた。




