表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/71

萬里花の猛攻

 聖夜が明け、新年を迎える準備に追われる一条家本宅。そこに、嵐のような「熱」が舞い込んだ。

「レイ様ぁ! 寂しかったでしょう? この萬里花が、貴方のすべてを癒やして差し上げますわ!」

 常磐萬里花まりか――僕の自称「許嫁」。彼女は親同士の約束を盾に、強引に一条家への泊まり込みを決めてしまった。


 今の僕は、極めて危険な状態にあった。瑛理香エリカとの火花散る摩擦、結衣ゆいへの裏切りにも似た罪悪感。それらすべてが澱のように溜まり、僕の肉体は常に暴発寸前のエネルギーを孕んでいる。

 僕の瞳に宿る、逃げ場のない「飢え」。萬里花はそれを、自分への盲目的な情愛だと、あまりにも都合よく解釈していた。


「見てくださいまし。レイ様のために、とびきりの装いを用意いたしましたの」

 深夜。僕の私室に忍び込んできた彼女は、薄い衣を纏い、狂気的なまでの献身を瞳に宿して僕に縋り付いた。

 その肌は、冬の寒さを忘れさせるほどに熱い。だが、それは陽葵ひまりのような生命の循環を感じさせる熱ではない。僕という存在を、自分という「岩(常磐)」の中に閉じ込め、窒息させようとする一方的な略奪の熱だ。


 僕は抗えなかった。湧き上がる衝動を抑えるため、僕は彼女をしとねへと引きずり込む。

 一度、二度……。

 萬里花は歓喜の声を上げ、僕の背に爪を立てる。彼女は僕の「量」に圧倒されながらも、それを愛の証明だと信じて疑わない。

 しかし、回数を重ねるごとに、決定的な違和感が僕を襲う。


 彼女の身体は、僕の放つ毒を中和してはくれない。むしろ、彼女の執着が僕の喉をさらに乾かせていく。

 萬里花は、僕の「三度目」を求める視線に、初めて恐怖にも似た戦慄を覚えたようだった。その顔は青ざめ、呼吸は浅い。彼女の虚弱な体躯は、僕という怪物の本能を受け止める器としては、あまりに脆すぎたのだ。


「……レイ、様……。もう、萬里花、動けませんわ……」

 涙を浮かべて横たわる彼女の横で、僕は虚無感に包まれていた。

 どれだけ重ねても、満たされない。どれだけ求めても、彼女は僕の鏡にはなれない。

 暗闇の中、僕の指先が求めていたのは、萬里花の絡みつく腕ではなく、あの陽葵との「透明な共鳴」だった。


 互いに多くを語らずとも、触れるだけで世界が完成するあの充足。

 一日に何度も、呼吸をするように重ね合える、あの地獄のような相性。

 

 僕は隣で眠る萬里花の熱に当てられながら、雪の下で自分を救ってくれた少女の、あの乾いた、しかし生命力に満ちた声を激しく渇望していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ