結衣(姉)のプレゼント
雪が止んだ後の世界は、残酷なまでに美しく整えられていた。
一条家のサロン。暖炉の火が爆ぜる音だけが響く密室で、僕は瀬那結衣と二人きりになっていた。
「一条君。これ、遅くなっちゃったけど……。良かったら、受け取って」
差し出されたのは、落ち着いたネイビーのマフラーだった。一目見て、それが既製品でないことがわかる。不器用なほどに丁寧で、温かな「祈り」が込められた編み目。
結衣は、僕が幼い頃の約束を忘れていないと信じている。僕を清らかなままの「一条零」として愛してくれている。
――だが、その「祈り」が、今の僕には何よりも重い毒だった。
僕はマフラーを受け取ると、そのまま彼女をソファへと押し倒した。感謝の言葉の代わりに、剥き出しの飢餓を突きつける。
陽葵との雪下での「補給」から数時間。僕の身体は、再び底のない空洞へと変わり始めていた。
「あ、一条君……っ。ごめんなさい、私……」
結衣は驚きに目を見開きながらも、僕を拒まなかった。それどころか、僕の暴走する衝動をすべて受け入れようと、その柔らかな腕を僕の首に回した。
彼女の肌は、どこまでも滑らかで、清流のような安らぎを湛えている。僕は彼女を手籠めにし、その清廉さを汚すように貪った。
一度。そして二度。
結衣は、僕が求めるままに、自らのすべてを差し出した。
だが、彼女の反応はどこまでも受動的だった。僕の激しいピッチに必死に付いてこようとするものの、その身体は次第に限界を迎え、震え始めていた。
「はぁ、……一条、君……。もう、少し……休まないと……」
結衣の声は、深い慈愛に満ちていた。彼女は、僕のこの異常な「回数」を、ただの「若さゆえの情熱」だと解釈している。だからこそ、自分の体力が尽きかけていても、僕を満足させられないことを申し訳なさそうに微笑むのだ。
その微笑みが、僕の心臓を抉った。
結衣の愛は、僕を全肯定する「光」だ。しかし、僕という個体が必要としているのは、そんな高尚な癒やしではない。
僕が求めているのは、僕の『零』を、同じ深さの『欠落』で埋め、何度でも何度でも、果てることなく共鳴し合える陽葵との、地獄のような「相性」なのだ。
「……ごめん、結衣。少し、一人にしてくれ」
僕は、自分を「一」に見せようとしてくれる彼女のマフラーを、首に巻くことができなかった。
罪悪感という名の泥濘に沈みながら、僕は確信していた。
聖域(結衣)にいればいるほど、僕は陽葵という「共犯者」の熱を、狂おしいほどに欲してしまうのだと。




