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ミスコンの火花

 後夜祭。演劇の成功という「表の興奮」が醒めやらぬまま、校庭の特設ステージはさらなる熱狂に包まれていた。

 毎年恒例のミスコン。だが、今年は例年とは「重み」が違った。

 

 一条組の跡取りである僕が審査員席に座らされ、目の前には伝統的ゼネコンと新興IT財閥、それぞれの利権と自尊心が凝縮されたような、眩すぎるヒロインたちが並んでいる。


「零様! 私がこの学校で一番、貴方に相応しいことを証明してみせますわ!」


 常磐萬里花まりかが、ドレスを翻して僕に視線を送る。彼女の執念に近い美しさは、まるで逃げ場のない檻のように僕を圧迫する。

 続いて、瀬那結衣ゆいが照れくさそうにステージへ。彼女の放つ清廉な香りは、荒んだ僕の心を一時的になぎへと導くが、同時にその「正しさ」に、僕の中の獣は窮屈さを感じて暴れだす。

 そして瑛理香エリカ。足の怪我を感じさせない凛とした立ち居振る舞いは、まさに鳳の象徴。彼女の激しい熱量は、常に僕を限界まで高ぶらせるが、それはあまりに体力を奪いすぎる劇薬だった。

 さらに凪冴さえ。機能美という名の冷徹な刃のような立ち姿。無駄のないその肢体は、僕に効率的な快楽を予感させるが、魂の震えまでは届かない。


 豪華な面々だ。誰もが完璧で、誰もが「一」としての価値を持っている。

 

 だが、ダメなんだ。

 

 彼女たちの美しさを網膜に焼き付けても、僕の内面にある「空(零)」は一向に埋まらない。むしろ、期待された反応を示せない自分に、ぬぐい去れない激しい空腹ひもじさだけが募っていく。

 

 その時だった。


「……ちょっと、あんたたち! 湿っぽい顔してんじゃないわよ!」


 予定になかった飛び入り参加。

 ステージの袖から、簡素な制服を少し着崩しただけの陽葵ひまりが飛び出してきた。

 

 その瞬間、僕の視界から他の全てが、ノイズのように消え失せた。

 

 華やかなドレスも、精巧なメイクも、彼女にはない。

 だが、彼女が動くたびに、ステージの空気が物理的に揺れるのがわかる。

 生命力という名の圧倒的な「動」。

 

 彼女が僕を一瞥し、不敵な笑みを浮かべた刹那。

 僕の胃の底が、まるで灼熱の鉄を流し込まれたかのように、熱く、激しく疼きだした。

 

 これだ。

 

 他の誰を見ても感じなかった、本能的な「渇き」と、それを潤せる唯一の予感。

 一日に何度も、それこそが生きるためのノルマであるかのように欲し、与え合わなければ死んでしまうと細胞が確信する。

 陽葵という存在そのものが、僕の壊れていたバイオリズムを無理やり、かつ完璧に整えていく。

 

「……一条さん。あんたの求めるものが誰なのか、はっきりさせてあげるわ」

 

 マイクを通さない彼女の呟きが、僕の鼓動に直接突き刺さる。

 

 ミスコンという茶番劇の裏側で、僕の「零」という飢餓は、陽葵という太陽によって初めて破壊され、塗り替えられようとしていた。

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