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偽りの演劇、真実の鼓動

 眩いスポットライトが、僕の視界を真っ白に焼き尽くす。

 舞台中央。僕はロミオとして、本来の主役である鳳瑛理香の前に立っていた。彼女の足首の負傷は、アドレナリンと陽葵の施した応急処置によって一時的に麻痺しているようだったが、その瞳に宿る熱量は、普段のそれよりもさらに鋭利で、暴力的ですらあった。


「……おお、ジュリエット。君の輝きは、この夜の闇をすべて払い除けてしまう」


 台本通りの、甘ったるい愛の言葉を吐き出す。

 観客席からは溜息が漏れ、ゼネコン一条組とIT鳳財閥の「象徴」たる二人の共演に、大人たちは満足げな笑みを浮かべている。


 瑛理香の手が僕の頬を撫でる。その指先は驚くほど熱い。彼女の放つ情熱は、常に僕のキャパシティをオーバーフローさせ、神経を摩耗させる。触れ合えば火花を散らす不協和音。本来なら、僕は彼女のこの「過電圧」に当てられ、数分と持たずに意識を白濁させていただろう。


 だが、今の僕は違った。


 ――僕の身体の底には、陽葵の「残響」が脈打っている。


 舞台に上がる直前、舞台裏の暗がりで彼女と交わしたあの深い接触。僕の血管に注ぎ込まれた陽葵の平穏な拍動が、今も防波堤のように僕を内側から守っている。瑛理香という嵐に晒されながらも、僕の心臓が「一」という形を保っていられるのは、間違いなく陽葵という解毒剤アンチドートのおかげだった。


「愛しているわ、ロミオ。この熱だけは、誰にも奪わせない」


 瑛理香が僕を強く抱きしめる。観客席が暗転し、劇はクライマックスへと向かう。

 鳳の香水の強い香りに包まれ、彼女の激しい鼓動が僕の胸を叩く。けれど、僕の感覚が求めているのは、彼女の熱量ではなく、舞台袖の暗がりに潜んでいるはずの陽葵の、あの泥臭くも愛おしい「生の匂い」だった。


 瑛理香との抱擁は、完璧な「偽り」だ。

 この美しく眩しい演劇を成立させるために、僕は陽葵から簒奪した生命エネルギーを消費している。

 一日に何度も、彼女に触れて修復しなければ、僕は瑛理香という光り輝く地獄を生き抜くことさえできない。


(……済まない、瑛理香)


 心の中で謝罪を呟く。僕は君を抱きながら、僕を生かしている「別の心音」に耳を澄ませている。

 拍手喝采が響き渡り、幕が下りるその瞬間まで、僕の身体を支配していたのは、舞台上のジュリエットではなく、影から僕を「一」に繋ぎ止めている、あの少女の周波数だけだった。

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