記憶の味
それから、さらに何年かが過ぎた。
荒野は少しずつ緑を取り戻していた。
俺たちは相変わらず旅をしていた。
大きな理由なんてない。
行きたい場所がある。
会いたいやつがいる。
困ってる連中がいる。
だから行く。
それだけだ。
夕暮れ。
ジープを停める。
焚き火を作る。
肉を焼く。
もはや毎度の光景だった。
「いい匂い」
さぎりが鼻をひくひくさせる。
昔みたいに。
「そろそろ食えるぞ」
「うんっ」
俺が串を渡す。
さぎりは受け取って。
少しだけ黙った。
炎を見つめる。
やがて。
ぽつりと。
「ねえ、ぱーちゃん」
「ん?」
「最初のお肉の味、覚えてる?」
俺は笑った。
「当たり前だろ」
「本当に?」
「お前が泣きながら食ってたやつだろ」
「うぅ……」
「しかも2本目に飛びついてた」
「それは忘れてっ!」
「無理だ」
俺は即答した。
すると。
さぎりは少しだけ俯いた。
焚き火の赤い光が横顔を照らす。
「よかった」
「何がだ?」
彼女は少しだけ笑う。
昔より大人になった。
でも。
その笑顔だけは変わらなかった。
「さぎりだけじゃないんだなって」
「……」
「覚えてるの」
風が吹く。
焚き火が揺れる。
星が一つ。
空に灯った。
「世界の知識はいっぱいあるよ」
さぎりが言う。
「でもね」
「うん」
「知識より大事なものもあったの」
彼女は肉をひとくち食べた。
目を閉じる。
噛みしめる。
まるで。
あの日と同じように。
「おいしい」
「そうか」
「うん」
そして。
満面の笑みで言った。
「やっぱり世界一だよ」
俺は火を見つめながら笑った。
世界はまだ不便だ。
でも。
その不便さの中で覚えたものは。
便利だった頃のどんな記録よりも、ずっとあたたかい。
夜空には星があった。
焦げた肉の匂いがあった。
隣にはさぎりがいた。
それで十分だった。
さぎりは空を見上げる。
無数の星屑が輝く空を。
そして小さく笑った。
「ちゃんと残ってる」
「何が?」
「一番大事な記憶」
そう言って。
彼女はまた肉にかぶりついた。
世界のすべてを覚えている少女は。
今日も幸せそうに笑っていた。




