空戦!A-1H vs Su-25フログフット
『——処理、不能。論理、矛盾、検出。エラー。エラー。エラー——』
地下プラントから、AIの軋むような音声が漏れ出す。さぎりの無駄知識の奔流が、その完璧な論理を内側から蝕んでいた。精密な機械に砂を噛ませるように。
「今のうちに脱出だ!」俺は叫んだ。「ルークさん! 非常停止レバーの場所へ! みんなであれを引くぞ! AIが復旧する前に!」
だが、その時。竪坑の遥か上空——地上から、けたたましいジェットの咆哮が降ってきた。
『パティ! 聞こえるか!』通信機にモーリスの声。焦っている。『ロークの残党だ! Su-25の改修型が竪坑の出口を塞ぎやがった! このままじゃ、お前らが上がってきても脱出できねえぞ!』
Su-25 フログフット。冷戦期のチタン装甲の頑丈な対地攻撃機。焼き切れた電子照準器を剥がし、旧式のリング照準器を溶接したアナログ改修型。エンジンもFADECをバイパスして、機械式の燃料噴射ポンプに直結した、生粋の叩き上げ。それが複数機、竪坑の出口で旋回し、待ち構えている。
「くそっ、空まで塞がれたか!」
『任せろ』モーリスの声が不敵に笑った。『こういう時のためにオレがいる。さぎり嬢ちゃん、地上にいなくても計算できるか!?』
「できるよっ!」さぎりが通信機に飛びついた。まだふらつきながら。「テクニカルの観測手に、風向きと敵機の位置を送らせて! さぎりの頭で全機の弾道を計算するっ! 船長は、さぎりの言うとおりに飛べばいいっ!」
『そうこなくちゃなァ!』
地上。A-1H スカイレイダーが、複数のSu-25を相手に、絶望的な空戦に身を投じた。
ミサイルはない。FCSもない。レーダーもない。あるのは目視の照準と、20ミリ機関砲、そして——さぎりの暗算だけ。
「船長! 2時方向のフログフット、旋回半径が大きいっ! チタン装甲は重いの! 船長のスカイレイダーの低速旋回性能なら、内側に切り込めるっ! 偏差、リード角、機体1つ半、前に撃ってっ!」
「あいよォ!」
モーリスのスカイレイダーがSu-25の内懐へ潜り込む。空冷星形エンジンが低速でも粘り強く機体を支える。20ミリ機関砲が火を噴いた。無誘導の鉄の礫が、フログフットのエンジンナセルを切り裂く。1機、黒煙を噴いて、ガラスの荒野へ墜ちた。
「1機、撃墜! さすがだよ、船長!」
「まだだ! 嬢ちゃん、次! どんどん来やがる!」
さぎりの澄んだ声が、次々と敵機の弱点を指し示す。風速、湿度、機体の速度、旋回の癖、エンジンの出力特性。そのすべてを瞬時に暗算し、モーリスの老練な操縦技術と完璧に噛み合わせる。人間の頭脳が、火器管制装置になる。
「船長、最後の1機っ! そいつ、腕がいいっ! 今までの機体と違う! たぶんロークの副官だよっ!」
「わかってる。歯ごたえ、ありそうだなァ!」
最後のSu-25が、モーリスのスカイレイダーに喰らいつく。2機は朝焼けの空で、絡み合うように旋回した。低速の粘り合い。
「船長っ! そいつ、右への旋回で一瞬バランスを崩す癖があるっ! さっきの3回、全部そうだった! 次の右旋回で、上に被せてっ!」
「お前さん、そんなとこまで見てたのか! ——いくぞォ!」
敵機が右へ旋回した。その一瞬のふらつき。モーリスのスカイレイダーが真上から覆いかぶさる。20ミリ機関砲が唸りを上げた。無誘導の鉄の礫が、敵機のエンジンごと撃ち抜いた。最後のフログフットが黒煙を噴いて、荒野の彼方へ消えていく。
『全機、撃墜だァ! 竪坑の上は、オレたちが取ったぞ!』
地上の制空権は、俺たちのものになった。
「これが、俺たちの戦い方だ!」俺は地の底で拳を握った。「見たか、ローク! 助け合いは、絶対的な機械に勝つんだよ! 空でも、地下でも!」
だが、その時。振り返った俺の視界の隅。
放心していたはずのローク大佐が——最後の力を振り絞って、その手に落とした拳銃を握っていた。
その黒い銃口は、まっすぐ、さぎりの無防備な背中に向けられていた。
「さぎり——ッ!!」




