空の重戦車(スカイレイダー)発進!
「オレの出番だな、若えの!」
整備ドックの奥、爆音とともにその機体が姿を現した。
A-1H スカイレイダー。2700馬力の空冷星形ガソリンエンジン。ライトR-3350の重々しい咆哮。4枚ブレードの巨大なプロペラが大気を叩き、黒煙と炎を噴き上げる。誘導ミサイルも、電子照準も、FCSも、何一つない。あるのは4門の20ミリ機関砲と、無誘導ロケット、そして熟練の腕だけ。
「船長! 飛べるのか、そのオンボロで!」俺は叫んだ。
「オンボロとは失礼な!」モーリスがコクピットから身を乗り出して笑った。「こいつはなァ、EMPなんぞ屁でもねえ! 純粋な油圧とワイヤーの塊よ! 電子が死んだ世界で空を獲れる、唯一の相棒だ! 粗悪ガソリンでも文句1つ言わずに回りやがる。健気なやつだぜ!」
モーリスが飛行帽を目深にかぶる。だらしない中年の顔が、歴戦の撃墜王のそれへと変わっていた。
「さぎり嬢ちゃん!」彼は通信機に叫んだ。「カノン砲の弾道計算。それに、あの要塞の対空砲座の旋回速度。全部頼めるか! オレは電子照準なんて洒落たもんは積んでねえ! お前さんの頭が、唯一の火器管制装置だ!」
「任せてっ!」さぎりが管制卓に飛びついた。青い瞳が完全記憶の光を放つ。「風向き、風速、気温、気圧、ぜんぶ計算するっ! 要塞のバルカン砲、クランク駆動の旋回速度は毎秒12度っ! 船長のスカイレイダーなら、その内側に切り込めるよっ! さぎりの言うとおりに飛べばいいのっ!」
「そうこなくっちゃなァ!」
スカイレイダーがテクニカルの飛行甲板を蹴った。重い機体がふわりと宙に浮く。エンジンの咆哮が荒野に轟いた。腹の底に響く、圧倒的な鼓動。
「ロークの旦那ァ! アンタの『絶対的な機械』とやら、オレのオンボロとどっちが上か、見せてもらおうじゃねえか!」
要塞のバルカン砲が火線を吐く。だが、クランク駆動の旋回速度は遅い。モーリスはその隙間を、まるで舞うようにすり抜けていく。
「船長、次っ! 3時方向、砲塔の死角に入ってっ! バルカンの旋回が追いつかない! そのまま機首を右に15度っ!」
「あいよ!」
さぎりの計算と、モーリスの操縦が完璧に噛み合う。スカイレイダーは20ミリ機関砲を叩き込み、要塞の対空砲座を1つ、また1つと沈黙させていく。曳光弾の赤い軌跡が、荒野の空に線を描く。
「ヒャッハー! どうだ、これがレシプロ乗りの意地よ! 電子に頼らねえ、生身の空戦だ!」
俺は甲板から、その空戦を見上げていた。胸が熱くなる。特殊能力も、ハイテク兵器も何もない。ただ、人間の技と知恵と勇気だけで、あの怪物に食らいついている。
「すげえ……」俺は呟いた。「あの2人。地上と地下で離れてるのに、まるで1つの機体を2人で操ってるみたいだ」
「あれが、あたしたちの戦い方さ」隣でオードリーが誇らしげに笑った。「1人じゃ勝てない。でも、2人なら、3人なら、化け物にだって届くのさ。ロークにはそれが分からない。あいつはいつも1人で抱え込むからね」
モーリスのスカイレイダーが、また1機の砲座を沈黙させる。
だが、ロークも黙ってはいなかった。
『……面白い。認めよう、その空戦技術は見事だ』ロークの声が響く。『だが、空だけではないぞ。私は地下を掌握する』
竪坑の底から、地響きが湧き上がってきた。ずしり、ずしり、と。地の底の何かが動き出す気配。
さぎりの顔が、蒼白になった。彼女は竪坑を覗き込んで叫んだ。
「……まずいよ、ぱーちゃん! プラントが動き出した! ロークが、さぎりの隙を突いて、地下のAIに手を伸ばそうとしてる! 封印コードの一部を、もう送信してるの——!」




