金属の軋み、剥き出しの熱
結局のところ、僕たちの「絆」なんて、この首にぶら下がった安っぽい金属の塊と同じなのかもしれない。
放課後。埃っぽい風が通り抜ける旧校舎の裏。
僕は、地面に転がった「それ」を見つめて立ち尽くしていた。
瀬那結衣との、10年前の約束。誰とも繋がれない僕にとって、唯一「自分は一人ではない」と思わせてくれるための依代。それが、瑛理香との不毛な言い争いの最中、些細な弾みで千切れ、土にまみれていた。
心臓の奥が、嫌な音を立てて軋む。
だが、その痛みは喪失感から来るものなのか、それとも、壊れてしまったことへの「安堵」から来るものなのか、今の僕には判別がつかない。
「……嘘。一条、それ……」
さっきまで高飛車に捲し立てていた瑛理香の声が、急激に湿り気を帯びる。
彼女は僕の制止も聞かず、地面に膝をついた。ゼネコンの跡取りとIT財閥の令嬢。そんな、この国の歪なパワーバランスを象徴するような僕たちが、埃っぽい地面を這い回って、小さな金属の部品を探している。
その光景は、どこか悪趣味な深夜番組のエンディングのようだった。
「いいよ、瑛理香。もう古いものなんだ。……元々、僕には不釣り合いな重石だったんだよ」
僕は冷めた声で言った。
結衣という「聖域」を守るための免罪符。それがない今の僕は、ただの空っぽな器だ。
だが、瑛理香は、泥で汚れるのも構わずに破片を拾い集める。
彼女の指先が、僕の足元に落ちていた小さなバネを拾い上げた。その瞬間、彼女の手が僕の靴に触れる。
熱い。
遊園地の時よりも、もっと生々しく、鋭い熱。
彼女の指先は、泥に汚れ、細かな傷がついている。それなのに、その傷口から彼女の「生の脈動」が漏れ出しているかのように、僕の神経を直接叩いてくる。
「……重石だなんて、二度と言わないで。あんたがこれを、どんな顔をして持っていたか……私は、見てきたんだから」
瑛理香が顔を上げた。その青い瞳には、怒りと、そして言葉にできないほどの「執着」が宿っていた。
彼女が僕の手を取り、無理やり拾い集めた部品を握らせる。
掌の中で、冷たい金属と、瑛理香の熱い指先が混ざり合う。
その、どうしようもない不協和音。
精神的な思い出を修復しようとする彼女の献身。
だが、僕の身体が反応しているのは、その「意味」ではなく、彼女の指先から伝わってくる「暴力的なまでの生命力」の方だった。
僕は、自分が怖くなる。
結衣の笑顔を思い浮かべようとしても、瑛理香の熱が、上書きするように僕の脳を焼いていく。
僕の中にある「飢え」は、過去の約束なんていう綺麗な思い出では、一秒も黙らせることはできない。
「一条……手が、震えてるわよ」
彼女が僕の掌を包み込むように握りしめる。
その瞬間、僕の耳の奥で、かつてないほど激しい共鳴が鳴り響いた。
脳が、身体が、もっとこの熱を寄越せと叫び始めている。
……まだだ。
僕は自分に言い聞かせる。この熱に屈すれば、僕は本当に「一条零」という仮面を失ってしまう。
だが、泥だらけになった彼女の指先の熱は、僕の冷え切った自意識を、残酷なまでに解かしていく。
壊れたペンダントと、汚れを厭わない令嬢。
美しい物語の体裁を保ちながら、僕の足元では、もっと救いようのない「肉体的な真実」が、どろどろとした質量を持って溢れ出そうとしていた。




