再会と干し肉の味
いや、違う。
同じ生体データベースとして造られた、量産試作体。だが、その瞳には、さぎりにあったはずの光がひとかけらもなかった。同じ顔で、同じ背丈で、けれど、まるで別物。ただ命令だけを遂行する、空っぽの器。
「……そっか」さぎりが拳を握りしめた。声が震えていた。「さぎりにも、いたんだね。姉妹が。さぎりの他にも」
『対象を確認。生体データベース、正規個体。回収する。抵抗する随伴体は排除する』
試作体が無機質に手を伸ばす。だが、さぎりは退かなかった。むしろ、一歩前に出た。俺が止める間もなく。
「ねえ、あなた」さぎりは、その自分と同じ顔に語りかけた。「お肉、食べたことある? 炭火で焼いた、塩漬けのお肉。じゅわって、脂が弾けて、香ばしくて。……あなたは知らないでしょ。さぎりも知らなかったの。ずっと、栄養カプセルが一番だって思ってた」
さぎりの声は、恐怖じゃない。何か、もっと切実な、祈りのような響きだった。
「でもね、違ったの。さぎり、教えてもらったんだよ。不便なこの世界の方が、手間のかかるこの世界の方が、ずっとずっとあたたかいって。……あなたにも教えてあげたい。一緒に食べたい。だって、あなたは、さぎりなんだもん」
試作体の手が、一瞬止まった。虚ろな瞳の奥で、ほんの微かに何かが揺らいだ気がした。忘れていた何かを思い出そうとするように。
だが——。
『……ノイズと判断。排除優先度を上げる』
試作体が動く。だが、その一瞬の躊躇が命取りになった。
「今だ、パティちゃん!」オードリーが叫ぶ。
俺は飛び出していた。だが、攻撃するためじゃない。腰のポーチから燻製肉の切れ端を取り出して、試作体の口元に突きつけた。
「食ってみろ! 話はそれからだ!」
『——!?』
予測不能の行動に、試作体の演算が明らかにフリーズした。「攻撃」でも「回避」でもないこの行動を、処理できなかったのだ。その致命的な隙に、ルークが背後から巨腕で羽交い締めにし、さぎりが素早く、その奥歯の受信端子を、俺に教わったやり方でショートさせた。
バチッ、と火花。試作体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
俺たちは燃料庫に爆薬を仕掛け、脱出した。背後で天を焦がす大爆発。ローク軍の補給が1つ、盛大に消し飛んだ。
テクニカルへ戻り、荒い息を整える。と、さぎりがつかつかと俺に歩み寄ってきた。そして。
「ばかっ!」
ぽかっ、と、ちいさな拳が俺の胸を叩いた。
「ぱーちゃん、また無茶して……! 燻製肉を突きつけるって何、その作戦っ! もし通じなかったらどうするつもりだったのっ!」
「いや、通じるって思ったんだよ。だって、あいつもお前なんだろ? お前なら肉、無視できねえだろうと思って」
「なっ……! さ、さぎりを食い意地のはった女みたいに言わないでっ!」
でも、その大きな瞳からは、ぽろぽろ涙がこぼれていた。怒っているのか泣いているのか分からない顔で。
俺は笑って、さっきの燻製肉をもう1切れ、彼女の口に押し込んだ。
「ほら、食え。腹減ってるだろ。生きてる証拠に」
「っ……」
さぎりは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、その肉にかぶりついた。
「……ん、っ……おいしい……おいしいのぉ……ばかぁ……」
涙と肉汁を撒き散らしながら食べるその姿は、世界で一番、生きていた。あの空っぽの試作体には、決して真似のできない姿で。
「……ねえ、ぱーちゃん」肉を飲み込んで、さぎりがぽつりと言った。「さっきのあの子。さぎりと同じ顔をした、あの子。いつか、他にもさぎりみたいな子がいるなら、全員助けたいな。全員に、この味を教えたいの。データじゃない、本物のおいしさを」
「……ああ」俺は頷いた。「そうだな。いつか絶対。手伝うよ、俺も」
さぎりはこくりと頷いて、また肉にかぶりついた。今度は、誰かのために生きる目をして。




