要塞潜入!完全機械式の強行突破
モヘンジョダロを目指す逃避行の道中。俺たちは、ある決断を下した。
このまま逃げ続けるだけでは、いずれあの24輪要塞に追いつかれる。燃料も弾薬も限界だ。ならば、先手を打つ。
夜陰に紛れ、俺たちはローク大佐が要塞の中継補給基地として使っている、旧世界の地下シェルターへの潜入を敢行した。狙いは、要塞の燃料と203ミリ砲弾の備蓄を、まとめて吹き飛ばすこと。
「電子ロックがない世界ってのは、いいねェ」オードリーが爆薬の詰まったバッグを撫でて笑った。「パスワードもハッキングもいらない。全部、火薬とちょいとした知恵でこじ開けられるからさ」
だが、その「機械式」が厄介でもあった。シェルターの分厚い金属扉には、旧式の、しかし堅牢な機械式ダイヤル錠が備わっていた。
「さぎり、開けられるか?」
「んー、無茶を言うねっ。これ、総当たりでも数万通り——」
彼女は言いかけて、扉にちいさな耳を当てた。そして、ふふっと口の端を上げる。
「——でも、必要ないよっ。この錠、製造番号から型式が特定できるの。刻印は右下の隅。この型なら、旧時代のメーカーカタログのデータがさぎりの頭にあるっ。マスターキーコードは……7、2、左に4回転、右に9っ」
さぎりがダイヤルをそのとおりに回すと、ゴトリ、と重い音を立てて閂が外れた。
「まじかよ……そんなのありかよ」
「えへへ。言ったでしょ、さぎりは失われた文明のぜんぶを覚えてるって。役に立ったっ?」
彼女は得意げに胸を張る。俺は、こいつのその明るさが、もう頼もしくすら感じ始めていた。
「なあ」俺はふと言った。「お前のその頭、こういう時は本当にすげえよな」
「こういう時は、って何ーっ。含みがあるっ」
「いや、普段はカピバラの確率とか、旧文明のアニメの話ばっか垂れ流すからさ」
「アニメは大事な文化遺産なのっ! さぎりが後世に伝えなきゃ、誰が伝えるのっ!」
「はいはい、わかったわかった」
「わかってないでしょ、その顔ぉ!」
こんな緊迫した潜入のさなかでも、こいつと話していると、なぜか肩の力が抜ける。それが、たぶん俺には必要だった。
内部へ滑り込む。だが、燃料庫の最奥、金庫のような最終区画は、手動ダイヤルだけでは開かなかった。分厚い鋼鉄の隔壁が行く手を阻む。
「ここは力技だ」俺は工具ベルトから超重量級のパイプレンチを引き抜いた。全長1メートル近い、鉄の化け物。「さぎり、この隔壁の蝶番の弱点は?」
「下側の蝶番っ。鋳造時の巣穴で、強度が2割落ちてるの。金属組織に微細な空洞があるんだよ。そこにてこの原理で全体重をかければ、構造的にそこから破断するっ」
「オードリーさん、爆薬をその蝶番に!」
「あいよ! こういう泥臭いの、大好きさ!」
オードリーが手動信管の爆薬を蝶番に貼り付け、俺がパイプレンチを隙間にこじ入れる。ルークがもう一方を巨腕で押さえた。
「導火線、点火! 3、2、1——伏せろ!」
ドンッ、という鈍い爆発音。同時に、俺は全体重をパイプレンチに叩きつけた。てこの原理と爆圧が一点に集中して、鋼鉄の隔壁がめきめきと悲鳴を上げ、ぐしゃりと外側へ倒れ込んだ。
「開いた!」
その先に広がっていたのは、燃料のドラム缶と砲弾の木箱の山、また山。ローク軍の補給の心臓部だ。ここを吹き飛ばせば、あの24輪の要塞も数日は動けなくなる。
だが、俺たちがそれを目にした瞬間。区画の奥から、無感情な音声が響いた。
『——侵入者を確認』
暗がりに、青白い光が2つ灯る。それは、この基地に取り残された旧式の警備兵——ではなかった。
そのシルエットは、俺たちのあまりにもよく知る姿をしていた。
「……嘘だろ」俺は呟いた。
暗がりから歩み出たのは——さぎりと瓜二つの、青い髪の少女だった。




