走れ、巨大履帯!
『全火力を、あの鉱山機械に集中せよ! 装置は瓦礫の中から拾い出せばいい! 少々壊れても構わん!』
203ミリカノン砲の直撃を受け、テクニカルが大きく傾いだ。整備甲板から火の手が上がる。俺はさぎりを抱えて、辛うじて鉄の腹の中へ退避した。
「ちくしょう、左舷、第3履帯の駆動軸がやられた!」機関室からルークの切迫した声。「動力が半分持ってかれた!」
「このままじゃ逃げ切れねえぞ!」モーリスが操縦席で吼えた。「坊主! 何かねえのか!」
「駆動軸を繋ぎ直す!」俺は工具箱を担いで、火と黒煙の中を走った。「ルーク、ディーゼルの出力を右舷に全部振り分けてくれ! オードリーさんは、あの要塞の足を止める算段を!」
「言うじゃないか、坊主! 任せな! 手動信管の置き土産を、たっぷりくれてやるよ!」
俺はひしゃげた駆動軸の前に滑り込んだ。金属疲労で無数のひびが走っている。溶接する時間はない。だが——。
「さぎり! ここ、どうすればいい!?」
隣で俺の腕を掴んでいたさぎりの青い瞳が、完全記憶の光を放った。今度は操られてじゃない。彼女自身の意志で。
「駆動軸の破断寸前部、応力集中は溶接痕の3ミリ上っ! そこにコールドウェルドを流し込んで、副木代わりに、外側からトルクレンチのシャフトを2本、抱き合わせて番線で固定! 締め付けトルク最大っ! それで、あと2時間は保つよっ!」
「よし、天才!」
「知ってるもんっ! ……あ、ちなみにそのコールドウェルド、完全硬化まで通常24時間だけど、そこのディーゼルの排熱パイプに近づければ5分で実用強度に達するよっ! ルークに排熱を回してもらってっ!」
「聞いたか、ルーク!」
「……もう、やってる」機関室から短い返事。
これだ。これが俺たちの戦い方だ。さぎりが知識で道を示し、俺が手でそれを形にする。ルークがエンジンを操り、オードリーが爆薬で時間を稼ぐ。誰か1人でも欠けたら成り立たない。不完全な俺たちが力を合わせて、1つの奇跡を起こす。
「繋がった! モーリスさん、右舷全開!」
「よっしゃァ! しがみつけよ、クソガキども! 振り落とされても知らねえぞ!」
テクニカルの巨大履帯が地を噛んで、猛然と回り始めた。ガラスの大地を削り、黒煙を噴き上げ、鉄の山が決戦の地——モヘンジョダロへと突き進む。背後で、オードリーの仕掛けた手動信管の爆薬が次々と炸裂し、要塞の追撃の足を束の間止めた。
「なあ、さぎり!」俺は風に負けじと叫んだ。「聞きたいことがある!」
「なぁに、こんな時にっ!」
「お前、なんであの時、銃口を跳ね上げた!? 機械に乗っ取られてたんだろ!? 抗えるもんじゃねえはずだ!」
さぎりは風に青い髪をなびかせながら、真っ赤な顔で、まっすぐ叫び返した。
「決まってるでしょっ! ぱーちゃんを、撃ちたくなかったからだよっ! あんな、めんどくさい、お人好しの、ばかみたいに諦めの悪い、ぱーちゃんを……!」
「……!」
「さぎりだって分かんないよっ! 体が動かないはずなのに! でも、ぱーちゃんのことだけは、絶対に傷つけたくないって……! そう思ったら、腕が勝手にっ……!」
俺は笑った。腹の底から。こんな絶望的な状況で。頬から血を流しながら。
「上等だ! だったら俺も言う! あんな、めんどくさい、生意気な女子——放っておけるわけねえだろうが!」
「なっ……!」
「それに、銀歯まだ入れてやってねえだろ! 約束、果たすまで死ねるかよ!」
「そ、そんな約束のために……! もっとロマンチックな理由はないの!?」
「あるか! 俺は整備工だぞ! 歯の修理だって立派な整備だ!」
「もう、めちゃくちゃだよ、ぱーちゃん……!」
さぎりは、俺の作業着をぎゅっと握って、それから涙を拭って笑った。あの、生意気であたたかい笑顔で。震える荷台の上で、黒煙の尾を引きながら。
「……ばか。一生忘れられないじゃない、そんなこと言われたら」
鉄の山は、黒煙の尾を引いて、ガラスの地平線の彼方へ。
2人の、そして探検隊の、本当の戦いが、今、始まる。




