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隷属の首輪


「先輩、さっきは援護ありがとうございました」


 血の赤で全身を染めた鈴華がゆったりとした足取りで歩み寄ってくる。

 一歩足を進めるごとにグチャグチャと血肉を踏む音が聴こえるが、まるで気にした様子はない。

 かくいう俺も同様なのだが。


「いや、あれくらいどうってことはない。そんなことより早く戻ろう。いろいろと気になることがあるんだ」


 気になること、という言葉に少なからず彼女にも共感するところがあったのかその表情には真剣そのもの。


「たしかにそうですね。姫菜さんも待っていることですし、戻りましょうか」


 ◆


「気になること?」


 ホテルに戻って開口一番、「気になることがある」という俺の発言に綾辻は疑問符を頭に浮かべた。


「そうだ。お前らも思わなかったか……なんであいつらはこんな所にいたのかって。あれじゃあ俺たちがここにいるのがわかっててそれを狙っているみたいだっただろう?」


「はい……私も思いました。どこか人為的なものを感じますね」


 思案げにそういうのは鈴華。

 綾辻はさっきから考え込んだまま口を開いていない。

 と思いきや、突如俯き気味だった顔をバッと上げて話を切り出した。


「そういえばあの魔物たち……なんかおかしかった」


 その口から放たれたのはその一言。

 しかし、それは大いに俺たちの興味を引いた。


「それはどういう……?」


 俺の疑問に答えるようにたどたどしい口調で彼女は説明を加える。


「えっと……動き方、というか戦い方が……機械的っていうか……規則性があった……から、なんか変だった」


 綾辻の言には確かに思い当たる節はある。

 攻撃がいやに単調だった記憶がある。


 それに


「さっきこんな物を見つけたんだ」


 俺がその手に出してみせたのは一つの首飾り、いや首輪といったほうが正しいかもしれない。


「さっき『鑑識眼』を使って効果を見てみたんだ、そしたらどうやらこれには隷属の効果があるらしい」


 つまりはこの首輪をつけた相手を自分の奴隷のようにできる、ということなのだが……


「なら、犯人は人間で間違いないですね」


「ああ」


 シルバリーコボルト並みの知性がない限りこんなことはできそうもないのだからほぼ確定といっていい。


「でも……その首輪は一個しかなかったんでしょ……なら、他の魔物はなんでついてきたの?」


 綾辻の疑問。

 だが、それについてはもう判明している。


「多分、その首輪を着けていた個体のせいだろう。コボルトリーダーっていう、所謂一つの群れの長みたいな役割を担っていたみたいでな……他の魔物はそいつについてきただけってところじゃないか?」


「なるほど……ね」


 納得した、とスッキリした顔の綾辻。

 しかし問題は何も解決してはいない。


「首輪で黒幕が人間だってのは分かったけど、それ以上のことは手掛かりもない……と」


「でもしょうがないですよ。それに今回の犯人が私たちを殺さないといけない理由があるなら今後も狙ってくるはずです。なら、その時に見つけられるようにすればいいんじゃないですか?」


 確かに一理ある。

 今の段階では俺たちには何もできない。

 ならば次の機会を待つのが得策、なのかもしれないな。


「それで結局、この後……どうするの?」


 今日、この後の計画……か。


「予定通りに俺の家に行こう。ここにいても何かできるわけでもないからな」


 少しばかりの思考の末、返答。


 今回の犯人にはこの場所はバレているだろうし、ここに居続けるのは少々リスクがあるというのも理由の内にあるのだが。


「了解です」


「ん……わかった」


 両者ともに承諾。

 他に意見もなく、行動はすぐに移された。


 迅速に荷物をまとめて[収納]。

 綾辻も装備を整え、ホテルを出る。


 あまり大きいとは言えない駐車場に停められた車に乗り込む。

 勿論運転は綾辻。

 道案内のため、俺は助手席に座る。


 警察はもう居ないといっていい状況だが、シートベルトはきちんと着用。


 車が発進。

 あくまでも安全運転を心がけてもらっている。

 速度は時速50キロくらいだろうか。


 それから数十分。

 景色が変わり行き、今は住宅地。

 周囲に生物の気配はない。


 警戒は続けたままで道を案内。


「あ、ここ右に曲がってくれ」


 多種多様な家屋の入り乱れる住宅街。

 その一画にある小さめの一軒家。


 見た目は……正直に言って汚い。

 家自体汚れが目立ち、周囲を囲むように雑草が生い茂っている。


「我が家ながら、久し振りに見るとやっぱ汚いな」


 車から降りて開口一番のセリフがこれだ。


 まあ、あの親の稼ぎで家があること自体奇跡に近いものなのだ。

 贅沢は言えない。


 とはいえ、鈴華と綾辻はちょっと引き気味だ。


「取り敢えず中に入ろう。家の中から人の気配はないから一先ずは安全な筈だ」


 俺の声で我に返った二人を引き連れての帰宅。

 なのだが、玄関を開けてすぐに俺は言葉を失った。





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