獣の軍勢
一陣の風が吹く。
開かれた扉の向こうには獣の軍勢。
解錠と同時に俺たちに不躾な視線が集まり、敵意が膨れ上がる。
臨戦態勢。
ギラリと眼光鋭く睨みつけながら四、五匹のコボルトが得物を手に迫り来る。
唐突に開戦。
しかしそこに焦りはない。
スピードは中々。
だがしかし、対処は容易。
冷静に脳内でシミュレーション。
最良の結果を導き出す。
そして――
「薙ぎ払え[影鞭]」
影が塊となって硬質化。
鞭の形を成しコボルト達を薙ぐ。
レベルが上がったからかその威力は前回使った時とは比べ物にならないほどに上昇。
直撃したコボルトたちは為す術なく吹き飛ばされ地面に衝突。
意識を失ったのか起き上がる気配はない。
魔力の貯蓄は充分。
向かう戦力はまだまだ終わりが見えないが負ける気はカケラもない。
今度はこちらから。
鈴華がスラリとその麗剣を抜いた。
刀身が光を浴びて反射。
美しく蒼く光る。
「鈴華」
俺は[収納]から水が入った一本のペットボトルを手渡す。
俺の意図を汲み取り鈴華は水を周囲に撒き散らし――
「力を貸して」
手が白くなるほど柄を強く握りしめる。
祈り。
呟いたその声に応じて、剣は真価を発揮する。
「――“麗剣 ニンファ”」
地面に撒き散らされた一リットル分の水が宙へと舞う。
「水よ、穿て」
掃射。
水の弾丸が魔物の群れに襲いかかる。
その様相はまさにマシンガン。
高速で射出されるそれは魔法よりも恐ろしい凶器。
俺も負けじと魔法を発動。
今回は接近戦をメインとする。
使うは[加速]と[帯電]。
更に『身体強化』。
これで能力値は前衛職と比べても遜色はない。
そこに俺はもう一つ。
「『銀気解放』!」
銀のオーラが俺を纏う。
腰に差した黒の刀。
“魔刀 黒薔薇”を抜き放ち――駆ける。
一足で数メートルを移動。
本来ならあり得ないスピード。
体が風を切り、気分は最高潮。
初っ端からフルスロットル。
向かうはウォーウルフの群れ。
まずは一匹。
大口を開いて噛み付かんとする狼に魔刀を振るう。
下段からの振り上げ。
本職から見たら隙だらけなのだろうその一振りはしかし、有り余った膂力でもって強引に切り裂く。
分厚い毛皮で隠された肌を黒刃が裂く。
ド派手に血を撒き散らし、赤黒い水溜りを作る。
ウォーウルフはただただ身悶えるばかりで反撃の姿勢は見せない。
一息に殺してやろうと一閃。
首を刎ねた。
仲間がやられて警戒しているのか、周りにいたウォーウルフたちが距離をとった。
「無駄だ」
[短距離転移]。
この魔法の初お披露目。
一瞬にしてウォーウルフの背後に回る。
いつのまにか姿を消した俺に困惑。
その隙に――
「死ね」
素っ首を戴こう。
刈り取られた首からは噴水のように鮮血が湧き上がる。
黒の外套が赤黒く変色。
だが、これもまた悪くない。
銀のオーラを更に膨れ上がらせ、疾駆する。
未だ戸惑いを隠せず、アタフタと狼狽えるウォーウルフたちを嘲笑うように一閃、二閃と刀を振るう。
背後から襲い来るウォーウルフは発動中の[帯電]によって感電。
息の根を止めると次の標的に。
目まぐるしくまわる戦場で俺は本来の目的を果たすべく、視線を彷徨わせる。
「そこか!」
視線の先には狂虐狼。
彼我の距離は目測で二十メートルほど。
しかし、そこに行くまでの障害が多い。
ウォーウルフはもちろんのこと、コボルトの数が多すぎる。
鈴華は四方を囲まれて援護に来ることはできなそう。
なら、俺が一人でやるしかないか。
魔刀を片手に、もう片方の手を前に突き出す。
「[雷槍]!」
掌から現れるは大槍を象った稲妻。
眩しいくらいの雷光がバチバチと鳴り響く。
「行けぇ!」
射出された[雷槍]は五、六匹のコボルトを纏めて貫通。
道はできた。
あとは突き進むのみ。
銀気を脚に集中。
地面を蹴る。
瞬きの間に距離が縮まる。
そして――
「ぐっ! ……つぅ」
左の腕に激痛が走る。
狂虐狼の爪撃。
「イテェな。 まあ、でも……予定通り」
これで、心置きなく殺せる。
刀を握る力が増す。
相対する狂虐狼も緊張感を露わに。
一定の間合いから近ず離れずを繰り返す。
恐らく狙いはヒットアンドアウェイ。
なら俺は一撃必殺の機会を窺う。
互いに動きはない。
焦らし、焦らし、ひたすら焦らす。
あまりの緊迫感にほかの魔物も遠巻きから眺めるばかりで入ってこようとはしない。
苛立ちからか、狂虐狼の口から涎が溢れでる。瞳孔は開きっぱなしで牙は剥き出し。
やはり先に動いたのは向こう。
その凶牙が俺に襲いかかり――
そして、赤く染まった。
《固有スキル:『復讐』が発動しました》
戦闘回は筆が進む!
次回もお楽しみに。




