“魔刀 黒薔薇”
騒音が耳を刺激する。
それに反応して脳は覚醒へと向かう。
閉じられた瞳は一瞬にして開かれ、即座にベッドから飛び降りる。
両隣には人の気配。
鈴華と綾辻は未だ眠りから目覚め様子はなし。
騒音は窓の方から。
つまりはこのホテルの外から聞こえてきているというわけだ。
まずは確認。
ベランダに身を乗り出し、覗き見る。
この部屋はホテルの三階部分にある。
必然的に下を見る形になる。
そして眼下に広がっていたのは獣の群れ。
毎度お馴染みのウォーウルフにコボルト、それに加えて今まで見たことのない魔物の姿もあった。
共通するのはどいつもこいつも獣、という系統に属しているということだろうか。
『鑑識眼』によれば、初見の魔物は三種。
ワーウルフ、ポイズンウルフ、そして狂虐狼。
ワーウルフは特にこれといって有用なスキルは見受けられなかったが、ポイズンウルフと狂虐狼のスキルには惹かれるものがあった。
まずはポイズンウルフだが、こいつは『毒性体』というスキルを持っている。
効果としては自身の体液を毒へと変えることができる、というものらしい。
次に狂虐狼。
この魔物は結構エゲツないスキル持ちで、名称は『痛覚倍加』。
自身が与えた攻撃により発動。
実際の倍の痛みを感じさせるらしい。
なんとも俺好みのスキルたちだ。
欲しい。
そんな思いが芽生えるが――
「数が多いな」
パッと見ただけでも恐らく数十匹。
五十は超えているかもしれない。
さすがに一人で対処は難しい、と未だに眠り耽る鈴華と綾辻を叩き起こす。
何事かと目を覚ます彼女らに事情を説明。
魔物たちは何故かは知らないが、ホテルの前をウロウロ。
どこかに行くような素振りも見せない。
かといって強引に入ってくるでもない、何かを待つようにただそこに居座っている。
今のところ危険は無さそう、ということでノンビリと朝食を済ませる。
「それで、あれ……どうします?」
パンを齧りながら問うのは鈴華。
「ん……ああ、そうだな……」
食材の賞味期限も切れ始めてきたなぁと遠くを見ていた俺は反応に遅れた。
しかし、本当にどうしたものか。
彼我のレベルを鑑みれば殲滅はそこまで難しいものではない。
ただ、俺はスキルが欲しい。
そのためには一度、攻撃を受ける必要がある。
狂虐狼の『痛覚倍加』は大したことはない。たかだか倍程度なら耐えられる自信はある。
だが、毒となるとそうもいかない。
一応、『毒耐性』のスキルは持っているが、レベルはそう高いものではない。
鈴華の『治癒』も外傷を治すものであって毒は治せないそうで、そうなると頼れるのはショップで購入できる解毒薬だけなのだが、効力のほどが分からない。
まあ、そんなことを言っていたら何もできないわけで……
「俺と鈴華で突っ込んで綾辻がここから援護、でいいんじゃないか?」
結局こうなると。
「えっと……先輩も来るんですか?」
首を傾げて困惑を示す鈴華だが――
「勿論だ。前までは接近戦ができる能力値もスキルも無かったが、今は充分戦えるだけのものが揃っている。それに……お前一人だけ危険な目には遭わせられないからな」
まあ、本当の目的はスキル蒐集なのだが。
心底嬉しそうな表情を浮かべる鈴華にそんなことを言えるわけもなく、速やかに装備を整える。
いつもと同じく“死神の礼装”を纏い、その指には“増幅の指輪”を通し、スリッパから“ウイングブーツ”へと履き替える。
そして新たに“魔刀 黒薔薇”を腰に携える。
これは一文字の遺品。
ランク6の武器。
その効力は強力の一言に尽きる。
能力はいたってシンプル。
この刀でつけた傷は治りが極端に遅くなる。というものだ。
詳しく述べるならば、普通なら一週間もあれば完治する傷の修復に一月を必要とするようになるといったところだろうか。
大きな傷でも作ろうものなら血が一向に止まらず失血死してしまうこと間違いない。
カチャカチャと抜刀と納刀を繰り返して確認。
俺は『刀術』のスキルは持っていない。
そのため、この刀を扱う技術自体は大したことはない。
だが、『銀気解放』を用いれば少しは戦力として数えられるくらいにはなれるだろう。
準備は万端。
横目を見れば鈴華も装備に抜かりはない。
敢えて気になることをいうのならば俺と同様に新調した剣、“麗剣ニンファ”をしきりに見つめていることだろうか。
銘に違わず蒼い刀身が美しい。
その美しさに顔を恍惚とさせながらも鈴華の戦意は溢れんばかりに昂ぶっている。
心は熱く、頭は冷静に。
俺は黒い外套を鈴華は魔鋼の鎧をその身に纏い、一歩を踏み出す。
いざ、獣たちの群集へ。
そこに迷いはなく、俺たちは――戦場に降り立つ。




